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年越し祭

「甘えていいかな」

と言ったけれど、本当に甘えることになるとは思っていなかった。ちょっと実家でのんびりしようという程度の思いだったのに。

「お粥持ってきたよー」

お盆を手に私が寝ている部屋にルラがやって来た。

昨日の夜、急に寒気がしてきて、頭が痛くなり、最後には熱が出た。

寒い中、薄着で動き回っていたせいで風邪をひいたらしい。まあ日々精霊に頼りっぱなしというのもあるけど、よりによってせっかくの休み、しかも今年最後の日に風邪をひくなんて……

というわけで、全身が熱っぽさでだるく、頭やら喉やら痛いので寝転ぶ以外なにもできない私は交代しているもののルラとアレスに付きっきりで看病されている。ルナとオルトは仕事だ。年末だから忙しいらしい。

「あ、ありがとう」

声はがらがら声で声を出すと喉が締め付けられる感じがする。私がお礼を言ったらルラは顔をしかめた。

「大丈夫?食べれる?」

声を出してはいけないな、そう思ってうなずくだけにした。実際のところ、私は今そうお腹は減っていない。寝てるだけだし。

ちなみにこの部屋は火精霊と水精霊によって温度と湿度がとても快適に保たれている。額は氷精霊に適度に冷やしてもらい、環境は申し分ない。

「大丈夫?」

「あっ、ルナちゃん。お仕事は?」

ルラが見ている方を見ると、仕事に行ったはずのルナが帰ってきていた。もうそんなに時間たったっけ?まだ朝だよね。

「今日はお兄ちゃんが来ないの?って聞かれたから風邪で休んでるって言ったら店長が帰っていいよって言ってくれたの」

今日は忙しい日じゃないの?年末年始の辺りは物を新調するからお店は基本的に混んでる。

「あとこれも、お兄ちゃんにってもらったの」

ルナはそう言いながら手に持っていた紙袋を開けた。

「あっ、お菓子だ」

「店長が今日のに作ったお菓子だって」

ルナが手に持っているものを見る、丸い焼き菓子だ。この地域では年末に近所やお世話になった人に手作りの菓子を振る舞うのが習慣だ、ルナのところの店長はそのうちの少しを分けてくれたのだろう。

「そうだ、もう今年の分は作ったの?」

「うん、もうすぐ焼けるよ」

昔は年末のお菓子作りもできなかった、普通の当たり前が普通にできるようになっていてとても嬉しい。

「焼けてるか見てくるね。ルナちゃんはここにいて」

そう言ってルラは部屋を出ていった。ルナは近くにあった椅子を私の横に持ってきて腰かける。

「お粥食べれる?」

私は再び黙ってうんとうなずいた。声をだしても心配されちゃうし。

匙に手を伸ばして、ルラお手製のお粥を啜る。少し熱いが美味しい。みんな私の見ていない間にずいぶん成長したなあ。嬉しいけど寂しい、複雑な気分。

「ねえ」

ルナに呼び掛けられてルナの方を向くと、ルナがなにやら神妙な顔をして私を見ていた。

声があまり出ないので、目で先を促した。

少し迷ってルナは口を開く。

「お兄ちゃんは何でお姉ちゃんじゃないの?」

私は慌てて精霊達を止めた。昔命令していたことをまだ覚えていたようで、私のことを姉と呼んだルナに軽い攻撃をしようとしたからだ。

「何……でそん、なこと……」

「ずっと思ってたの。お兄ちゃんは本当はお兄ちゃんじゃないのに、何でお兄ちゃんなんだろうって。昔は働くためって思ってた。でも今はそうは思えないの、だってお兄……お姉ちゃんはとってもすごい精霊使いなんでしょ?お姉ちゃんくらいの精霊使いに仕事がないはずないもん。どうして?どうしてお姉ちゃんでいてくれなかったの?」

ルナは怒っても悲しんでもいなかった。ただどうすればいいのかわからないという表情でじっと私の方を見ている。

「私ね、悔しいの。お姉ちゃんがお姉ちゃんでいられないでいることが。妹なのに、お姉ちゃんって呼べない私が。私たちのためっていうのは全部の理由じゃないんでしょ、お姉ちゃんは私たちに嘘はつかないもん、ついたらすぐにわかるんだから」

そう言われ、遠い昔の記憶がふと頭をよぎる。しかしそれはすぐにおぼろげで霞がかったものに変わった。

いつからルナは気付いていたのだろう、私ですら忘れかけていたことなのに。

「ごめんね、風邪なのにこんなこと言っちゃって」

ルナは表情を和らげ、いつもと同じ目付きで私を見る。

「お兄ちゃんに知ってて欲しかったの。いつかお姉ちゃんに会いたいって。全部教えてくれるのはお姉ちゃんが話したいときでいいよ、って」

かっと目の奥が熱くなった。目から熱いものが溢れ落ちて止まらない。どうしてこうも涙が出るんだろう。

「ごめ、ん……」

家族なのに、全てを話せなくて。

締め付けられているように痛む喉から、この一言を絞り出すのが精一杯だった。





本当は31日にやりたかったんですけどスマホの通信制限がかかりまして……Σ(ノд<)

明日の夜は回線?とか混雑してそうですのでやってしまうことにしました(・・;)

なので1日早い年明けです。今年分の最終話はせっかくなので今日の23~0時に、予約投稿というシステムを使って更新します。初めて使うなぁ

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