子供達 7
そろそろいったん私も家に戻ろうかと思ったとき、先程の騎士に連れられてカイが戻ってきた。後ろにはサイラスもいる。
「大丈夫だそうです。部屋は余ってますし」
横にいるサイラスを見ると、彼も同意するようにうなずく。
「手伝いが欲しかったのは事実ですし、女性ばかりの手伝いでは頼みづらいこともありますから。気に入ったら正式に雇うかもしれません」
そう言ってサイラスは笑った。
「彼をこき使ったりはしませんよね?」
私は念押しのために質問しておいた。万が一のことがあっては困るし。
「しませんよ。レド様に誓ってもいいくらいです」
レド様は全世界で信じられているレド教の主神だ、レド様に誓うと言うことは破らない約束をである意志を表している。
「ならいいんですが。何かあったとしても私には責任がとれません。疑ってしまいましたがわかってください」
彼は一時的に騎士団が預かっているというだけなので、何かあっても私にははっきり言ってしまうと関係無いことになる。ハセ区の騎士団が勝手に預かった、という認識になるからだ。私が決定を下したわけじゃないし。
「あの……レゲル様はそろそろお戻りになられて休まれては?休暇でこちらにいらしているのに、これでは休暇になっていないのでは……」
「そうですね。そうしたいんですがまだレダという子が残っていますし」
「あの子のことは我々にお任せください。これ以上はレゲル様の責任問題にも関わるかもしれません。レゲル様はこの区の顔です、何かあってはいけません。どうか休暇をお楽しみください」
そこまで言われると何も言い返せないな。まあこの区出身の私が失脚でもしたら彼らも困るのだろう。
「ではそうさせていただきます。ですが、あの子の行き先が決まったら私に教えてください。心配ですから」
「はい。決まり次第お伝えします」
私の彼らの方に向けて一礼し、広間から出た。
ほとんどの子供が家に帰っていったようで、広間に残っていたのはレダと二人の子供だけだった。出る間際に近くにいた騎士に訊ねたところ、少し家が遠く、迎えがまだ来ないだけらしい。家に連絡は送っているとか。
騎士団を出ると、なぜか人がたくさんいた。
そして騎士団の敷地を出るやいなや、人に囲まれる。
「誘拐犯から子どもを助けたんですよね!」
「すごいですレゲル様」
「正義の味方みたいです」
適当に何か言ってこの場を去りたいけど、人が邪魔で動けない。精霊たちが一気に不機嫌になったし。どうしようかな……
しまいには握手を求められた。いや、できませんて、そんなにたくさん私に手はありませんよー
「兄さん!」
どこからか救いの声が聞こえる。背伸びして辺りを見回すと、人だかりの外側に跳び跳ねて私の姿を探しているオルトがいた。
空気を読んでくれた何人かがオルトのために道を開けてくれた。他の人もさすがに気付いて退いてくれる。
「よかった、みんな心配してるから戻ろうよ。ミゼルも一緒に来てるから……あっ、もちろんルナが側にいるから大丈夫」
さすがに昨日の今日で誘拐は起こらないだろうけど不安だしね。まあ家にいるのが一番安全だから早く家に帰りたい。
「すみません、引き留めてしまって……」
「お疲れですよね、どうぞゆっくりなさってください」
会話を聞いた人は少し申し訳なさそうになる。やっと解放されるのかな。
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
私がそう言うと、みんな通る道を開けてくれた。
オルトの手を引きながらそこを抜けて、元気そうなミゼルとルナを交互に抱き上げる。
「ミゼルはなんともない?」
「大丈夫だよ。昨日見たけど痣とかもできてなかったよ」
うまく応えられないミゼルの代わりにルナが言う。
「ルラちゃんもアレスも心配してるから早く帰ろ。今頃ルラちゃんがお兄ちゃんのためにお料理作ってるよ」
みんなのほっとしたような顔を見ていて、ふと今は家に戻ってきて休暇中なことを思い出す。
せっかくの休みで、みんなを安心させるためなのに、逆に心配をかけてしまったな。
「みんな心配かけさせてごめんね。明日は私も休暇中らしく過ごすから……」
次の言葉がすぐに浮かばなかった。どうしたいんだろう、私は。
「少し、甘えていいかな」
思えば誰かに甘えたいって思ったことはなかった。むしろ甘えてもらう側で、そうなれるようにしてきた。
でも今日、親と出会えた子供達の様子を見ていて、親も子供に甘えたいんだな、と思った。子供は親にもちろん甘えていたが、親もそこから何かを得ようとするようにしていた。
きっと私も誰かに甘えたいって思っていたんだろう。だからあの言葉が出たのだ。
オルトとルナは少し不思議そうな顔をしていたけど、それはすぐに笑顔に変わった。
……やっぱり、家族っていいな。
誘拐編終了です(^^)
年末のお話は31日の昼か夜くらいにUPする予定でいます。




