殿下のパーティー2
「レゲル様、大丈夫ですか?」
ヘクが真っ先に私のことを心配してくれた。
「この人には精霊がいるから心配する必要無いだろ」
デルグの反応は相変わらずだ。彼らしいが。
「大丈夫、こうなることは覚悟してたから。君たちはなぜここに?」
「クラヴィッテ殿下が騎士団の新人2人分の招待状を余分にくださったから、俺達が来た」
まあ騎士団の将来を担うであろう新人を呼んでも損にはならないからだろう。私はちらりとヘクを見た。
彼には悪いがなぜ貴族のデルグの次くらいに出来る貴族出張の新人をパーティーに参加させなかったのだろう。貴族出身者を選ぶのが普通だと思う。
「僕はその……デルグが」
ヘクはそう言ってちらりとデルグを見た。
「俺が言ったんです。新人の中で俺と同じくらい強いのってこいつだけだもん」
私はヘクとは戦っていないから知らないけれど、デルグが強いって言うくらいなら相当だろう。私のことは認めたがらなかったくせに。
「へぇ、服はデルグが貸したの?」
「はい、僕平民だからこういう場で着るような服持ってないんです。新人だから給料は無いようなものですし」
「でもこれから貰う給料もほとんど仕送りするつもりなんだろ?1着は絶対要るぞこういうの」
「仕送り?」
私も残してきた兄弟には毎月給料のほとんどを仕送りしている。補佐官になったことで一気に給料があがったので前よりは自分の懐に余裕ができたけど。
「両親にです。父さんが病気で母さんだけじゃ苦しいから僕は魔物狩りをしてたんですけど、騎士の方が安定してるので騎士に……」
「そっか、私も兄弟に仕送りしてるけど補佐官になって給料が一気にあがったから買い物くらいはできる……始めは大変だよ」
ヘクは大きく頷いて言った。
「やらないと、僕じゃなきゃできないことだから。それに正式に騎士になれれば大分楽になります」
「どうしてもだったら俺に言えよ、少しくらいなら手伝ってやるから」
にしてもデルグとヘクは仲が良いのだろうか。服を貸したりお金の援助を申し出たりといろいろ世話をやいているようだ。
「あなた達はどんな仲なんです?」
「どんなって……同室なんですよ俺達」
平民と貴族を同室にするなんて珍しい。貴族は貴族、平民は平民と同じ部屋になることが多いのに。
「部屋割りは入団した日に自分達で決める仕組みになってて、それでデルグとは同室に」
「他の貴族のやつよりこいつの方がよっぽどいい。騎士団で身分がどうとか言うやつは嫌だ」
「……私のことは始め精霊使だから非力だって言いませんでしたか?」
私が笑いながら訊ねると、彼は私の方を見ずに言った。
「あれはまぐれだろっ!」
何人かの人がちらりとこちらを見たが、すぐ会話に戻っていった。あんまり大きい声で騒がないのがマナーです。
「あんまり騒ぐと怒られますよ……、まあまぐれと言ったらまぐれみたいなものかもしれませんね」
私が自分に否定的なことを言うのは久しぶりだ。宮殿では自信満々に振る舞わないと私が困るから。謙虚なんて縁遠い言葉だ。
「私は見ての通り筋肉とかスタミナはあなた達騎士には劣ります。長期戦になってたらたぶん負けてました。自分の身は自分で守れるよう訓練はしたんですけど」
「精霊がいるのにですか?」
「本体がやられたら意味がないからね、騎士と打ち合えるくらいは出来るようになった。まあそのうちすぐ君らには抜かされる。かわりに精霊なら誰にも負けないけどね」
最後のところは自信満々に言った。
「そういえばレゲル様は何体の精霊と契約しているんですか?」
「6体だよ。火と水と光と風と植物と氷の精霊」
そう言ったとたん、彼らの私を見る目が変わった。
「あと闇と土の精霊だけじゃないですか!」
「3体くらいだと思ってた……」
「まだ精霊とは契約出来てないんだね」
精霊が同士は見えるから相手の精霊について教えてくれる。まあ精霊と契約してるのは半分くらいの人だし、遅い人なんて70くらいに初めて精霊と契約したらしいからなぁ。
「精霊騎士になれればいいね
2人に1人は精霊と契約出来るのだ。どっちかは精霊騎士になれるかもしれない。
「他人事みたいに言うな!」
「実際他人事ですし」
私とデルグが言い合っていると、ヘクが私の後ろの方を見て何やら驚いている。
「あっ、あの人……」
思わず振り返るとそこには今日の主役、クラヴィッテ殿下とクレイがいた。
私達が慌てて礼をしようとしたら殿下に止められた。いちいち面倒だからだそう。まあやる側もやられる側も面倒だな。
殿下とクレイはしっかり、派手にならない程度に着飾っていた。美男子2人がきっちり着飾っている姿にはあちこちの貴族の娘が見惚れている。私が女として見ていたら同じような反応をするんじゃないかってくらいに2人は一段と輝いている。纏ってるオーラも違うね。
「殿下自らここまでいらっしゃるなんて、何かあったのですか?」
私の後ろでデルグとヘクがどうしていいやらでおろおろしているのが伝わってきた。まあ彼らの目の前にいるのは王子様だからな。びっくりするのも当然だろう。私は何回か話をしたことがあるからなれてるけど。
「いや、レゲルが誰と話しているのか気になってね」
「騎士団の新人です。こちらがデルグでこちらがヘクです」
「ああ、君達が今年の期待の新人かな?知っていると思うが私はクラヴィッテ・アリュ・サージェスクだ」
殿下が自己紹介したので、従騎士のクレイも同じく自己紹介をした。
「僕はクレイ・ダグ・レグレージェ、殿下の従騎士」
国のお偉いさん2人に自己紹介されようやく落ち着いたデルグとヘクはそれぞれ自己紹介をした。
「新人騎士のデルグ・レグレージェです」
「同じく新人騎士のヘク・ゲデナです」
「デルグにヘクか、よろしく」
殿下の言葉にぺこぺこと2人は頭をさげている。緊張しすぎな気もするが。まあ放っておこう。彼らが多少殿下に無礼なことをしてしまっても今日は何も起きなさそうだし。
「デルグ君はレグレージェ家の本家かい?」
唐突にクレイがデルグにそんなことを訊ねた。
「はいっ、クレイ様は確かレグレージェ家の分家ななのですよね」
「君の父上も招待したんだけど断られてしまってね。本家の人がいてくれてよかった。誰もいないかと思った」
確かクレイの名前の間に入っていたダグは分家の意味だった。どっかで聞いたなと思ったらデルグの話を聞いたときに聞いたんだ。
「親戚だったんですか」
「まあね、といってもうちはけっこう遠い分家だから会ったことは無いんだけど」
「父上から親戚が従騎士になったとは聞きました」
知らずに会った2人が親戚同士とは、世間は狭いな。
「クレイ殿、婚約者を放っておいてもいいんですか?」
「彼女は幼なじみの友人と話しているんだ。そう言う君は結婚を考えたりしないのかい?そろそろ身を固めるべきだろう。君に好意を寄せる女性も多いだろうに」
「私はまだ結婚する気はありません」
「まあ君ならいつでも相手は見つかるだろうけど……ここにいる女性では不満なのかい?それなりに家柄もいいし、綺麗な子ばかりじゃないか」
私は一度周りを見た。確かに綺麗な令嬢ばかりだが、結婚するとか無理。なんか聞き耳立ててる人が多い気がする。
「養子話もあるんだろう?貴族になるチャンスじゃないか」
「貴族のいざこざに巻き込まれそうなのでお断りしています。それに貴族になるといろいろ面倒なしきたりやらマナーがあるでしょう。平民の方が気楽でいいです。税金も払えてますし」
「決めるのは君だし、僕があれこれ言うのも無粋かな。そろそろ楽団が来るから君は……いろいろ頑張れ」
最後は小さい声でそう言われた。どういう意味だろうかと少し考えたら、すぐ分かった。ダンスの相手とかそういう問題か。
「私は隅で飲むか食べるかしてますよ」
「一回くらい踊ればいいだろう。踊った相手とどうこうなる訳でもない」
殿下に暗に一回は踊れと言われた気がする。なんでそう踊らないといけないみたいな雰囲気に……
「既婚者の奥様辺りですかね」
「そこに行く前に若い娘に捕まると思うぞ」
だよなぁ、無理だな。一回踊ったら次もありそうだし。
私は蚊帳の外になっているヘクに目を向けた。彼小柄だしまだ子供っぽい顔してるから女装いけるんじゃないか……
「ヘクに女装させるのは無理があるだろう」
殿下があっさりと私の思考を読みました。殿下が察したってことは殿下も少し思ったんじゃないですか?
「えっ?僕?」
「気にするな、それはない」
「どうしましょうかね……」
「そう気を落とすな、せっかくのパーティーなんだから踊っておけ。楽団が来たようだからここで失礼させてもらうぞ」
楽団が来てしまったようだ。誰か適当に踊るしかないのかね。
精霊が私を慰めようとうろうろしているが、気が散るだけなのでやめさせた。