子供達2
誰かがこちらに近付いてくる音がする。
「レゲル様っ!」
一人の騎士が私達の姿を見つけ、表情が和らいだのは一瞬で、次の瞬間には騎士は私の肩に釘付けになっていた。
「怪我をなさっているではありませんか!」
その声に釣られて他の騎士もぞくぞくとこちらにやって来る。
「どうされたのですか!?」
その声とほぼ同時にポッと肩が暖かくなり、痛みが少し和らいだ。
「一応止血はしたのでもうほとんど治ったようなものです。それより子供たちの保護をお願いします」
「はっ、はい!」
騎士達は子供たちの数を数えたり話を聞いたりと忙しそうに動き始める。
とはいえこんな森のなかでは詳しく話を聞くとかできないから、名前とか体調とかを聞くだけであとは子供達を荷車に乗せるだけ、になったとき、付いてきていた医者が小声で私を呼んだ。
何だろうなと返事をすると、医者は言いづらそうに口を開いた。
「あの、子供を一通り診察したのですが、何人かの子供が精霊を連れているようで、精霊使いを誘拐するものでしょうか?」
あー、やっぱりわかるよね。この年齢の子がこんな割合で精霊を連れてるわけがないから。しかも誘拐されるような子は精霊連れてないし。
「精霊が気に入った子供が多かったのでは?捕まっていたところで魔物が出たので護るためではないでしょうか」
我ながら結構無理のある言い訳だ。私はさておき、精霊は選り好みの激しいモノだと言われてるし。
「それよりこれからどうするのですか?子供達もいますし、一度戻りますか」
「それについてなんですが」
後ろから声がした。ハセ区騎士団局長のサイラスだ。
「一部をこの付近で野宿させ、朝になったら先にある廃村を調査させるつもりでいます」
で、残りで子供達を連れて戻るということですね。わかりました。
「しかし魔物がまだこの辺りにいる可能性もあります。私も残りましょうか?」
私がそう提案すると、勢いよくサイラスとその他騎士が首を横に振る。
「怪我をなさっているではありませんか!無茶はお止めください」
「そうです、これ以上あなた様に何かあれば我々はどうすればいいのですか!」
「我々は魔物ごときに屈しません」
「……では、そうさせていただきます」
まあ、そうだよね。さすがにこれ以上怪我したら騎士団の人達にも迷惑か。誘拐犯のとこに行ったのはほぼ独断だけど、これは騎士団の作戦の一環だし、サイラスとかが責任をとらされでもしたら困る。
それにこれはハセ区騎士団のあまりない活躍の場だし、私がいくら出身地のこととはいえしゃしゃり出たら騎士団の活躍は私のおかげ、騎士団はすごくない……みたいな感じになりそう。
「お疲れでしょう、狭いですがお乗りになりますか」
「いいえ、怪我は肩だけです、歩けるので構いませんよ」
荷車には今あんまり隙間がない。少しくらい余裕が無いと子供達も眠れないだろう。
火精霊がいたらなぁ、温かくできるのに。
そうだ、レルチェ、火精霊と一緒に置いてきちゃったけど元気にしてるかな。早く会ってあのつぶらな目で見られたいな……
「ねえ騎士様、このお兄ちゃんそんなに偉い人なの?」
私が物思いにふけっていると、荷車に乗っている女の子が近くにいた騎士に質問をしていた。
「なんだ、君知らないの?レゲル様はこの国の宰相様の補佐官だぜ。有名なお人だよ」
その話題を聞いた何人かの子がはっと思い出したように言う。
「知ってる!俺の母ちゃんが言ってた。とっても強い精霊使いだって!」
「僕も!貴族様じゃないのにすんごく偉くなった精霊使いの人がいるって、僕のお父さん精霊使いなんだけど、『そんけいしてるしょみんなんばーわん』って言ってた。よくわかんないけど」
「私のお母ちゃんももっと若かったらものにしてたのに、って。どういう意味なの?」
それを聞いた数名の騎士が吹き出した。素直で可愛いことを言ってるだけじゃないか、笑うな。
にしてもまさかこんなことを言われてたのか。
今度あたり変装して噂でも聞いて回ろうか。尾ひれが付きまくってそうで怖い。




