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市場探し3

不意に、あれほどひどかった振動が小さくなった。

どこかの道に出たのか、外が見えないからまったくわからないけど。

しばらく進んで馬車は止まった。

男が馬車の扉を開けて出てくるように指示してきた。

そこまで長時間乗せられたわけではなかったので、私はあまり立ち上がるのに苦労しなかったけれど、奥にいる子なんかは何度も立ち上がろうと頑張っていた。

手が縛られてる上に長時間居心地の悪い馬車に乗せられたら動きづらくもなるだろう。

降りられる者が降りたのを確認し、しびれを切らしたのか男が無理やり奥の方にいた子達を立ち上がらせた。

どこにいるのかを確認するために辺りを見回すと、廃墟っぽい建物がいくつか見えた。

陽はとうに沈んでいてよく見えないが、廃村になった村かなにかだろうか。

確かにこういうところは国のあちこちにあるし、滅多に人が来ないから身を隠したりするにはうってつけの場所だろう。元が人のいたところだから壊れているとはいえ建物もあるし。

少し歩かされ、小さい倉庫らしきところに連れてこられた。

中はにはさらに他の子供がいて、くぐもったすすり泣きが聞こえてくる。

中に入ろうとしたら、止められた。

「お前はこっちだ」

引っ張られて転びそうになったけどなんとか立て直して抗議の声をあげる。

猿ぐつわされててモゴモゴ言ってるようにしか聞こえないけど。

別の建物に連れてこられた私は椅子に座らされた。

明かりがすぐそばにあって眩しい。暗いとこにずっといたから仕方ないけど。

私はそこで初めて猿ぐつわをはずしてもらえた。

思わず深呼吸。こんなに息が吸いにくいとは思ってなかったよ。

「お前、名前は?」

私は思わずビクッっと震える……フリをする。弱気な青年ってことにしておこう。普段とは髪型をだいぶ違うものにして、目付きも眩しさ関係なく細目にしといた。

印象っていうのはけっこう髪型や目付きで変わるものだ。

仕事終わりでうとうとしてるカーレル様の目付き、本人が知ってるのか知らないけどかなり凶悪なものになってるし。もっとも他の人に会った時とかはけっこう頑張って笑顔にしてるけど。

「カルレ……カルレ・ゲナルド」

怯えきった目をしてる……フリ。

「特技とかあるのか?」

精霊使いとしてなら……なんて言えるわけがない。

拐うのが子供の理由は扱いやすくて安価、狭い場所での仕事をさせられること以外に、精霊を使役することができないことだ。

基本的に精霊と契約できるのは十歳を過ぎた頃くらいから。

だからさっき見た子供はみんなどう見ても十歳以下の子達だったのだ。

精霊を使役できますなんて言ったら殺される。精霊使いは敵にまわるとやっかいでしかないから。

「子守り……ですかね」

小さい子どもの世話なら得意だ。五人も下の兄弟がいれば子守りも得意になる。

「子守りねぇ。他には?」

私には見た目通り、筋肉がほとんどない。まあ一応女だし、精霊がいること前提だから。

騎士団の人たちはもう少ししたらここに来るはず。

夜の方が襲撃もしやすいし、何より奴隷売買は基本的に夜に行われるから、売主も買い手も一度に捕まえられる。もっとも今日だとは限らないけど。

ふと天井の隅を見上げると、私の精霊がなにかを伝えようとしていた。

ある程度近くにいないと精霊との念の会話はできないので、口の動きをよく見ることにした。

まもの……むかってる……こっち……

同じフレーズを繰り返しているので、続きを促す。

きし……おくれてる……じきまもの……むれ……

まずい状況になってしまった。

もしここにいるのが私だけなら、今すぐ縄をほどいて逃げ出すけど、ここには子供がたくさんいる。

彼らは魔物が近付いてきてるのを知れば、子供を置き去りにして囮にし、自分達だけ逃げるはずだ。そうなれば結果は最悪のものになってしまう。

かと言って、どんなものかは知らないが、魔物の群れに私一人では太刀打ちできない。誘拐犯に協力してもらうのはもっと無理。

考えている時間はない。騎士団より先に、魔物の群れはここに来る。

ちょうど私がそう考えているときに、知らせはやって来た。

「魔物の群れがこっちに来てる!ここを離れた方がいい!」

勢いよく開けられた廃屋の扉が壊れて倒れるのと、遠くで悲鳴が聴こえたのはほぼ同時だった。

迷っている時間はない。

私は握っていた手を緩めて縄をとく。

売人達は焦っていて私の様子に気付いていないようだ。

考えた結果、魔物の群れとまともにやりあって勝てる見込みはほぼない。

しかし子供を守る手は思い付いた。

……まあ、人としてはかなり最悪の手だけど、これ以外に方法が浮かばないから。


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