騎士団にて
ルラの働いてる食堂のご飯は美味しかった。
仕事の合間に昼食を食べに来る人を対象にしているので、安値で満足できる料理が多い。
給事の女の子たちの会話を精霊が教えてくれるんだけど、誰が注文を持っていくかなどの争いをしているようで、もう呆れるしかない。
ルラが取りにこればいいじゃないか。
このあとハセ区の騎士団に行って、いろいろ聞きにいく予定だ。
せっかくの休みが誘拐犯のせいで仕事みたいになってしまった。 騎士団に任せておいてもいいんだけど、どことなくもやもやを抱えながら年末を楽しくなんて過ごせない。
それに私が手伝った方が早いし。
食後、今日は休みを貰ったらしいオルトにミゼルを預けて、私はハセ区の騎士団の屯所に向かった。
話を通してくれていたらしく、門の人とちょっと話をしただけで入れてもらえた。
私がここに来たのは、少し人手を借りようと思ったからだ。
せっかくの休みを邪魔された上、妹を拐った奴等をそのままにしておくなんてできないので、いっそやるならとことんやってしまおうと思ったし。
それに私が行くとお店とか営業妨害になりかねない。まさかここまでとは思ってなかった。
応接間で待っていると、ハセ区騎士団の局長らしい人が入ってきた。
騎士団団長のホラスとはすごい違いだ。
さすが実戦部隊、大柄だけど脂肪とか、そういった余分なものは一切ない。まあこういう人は騎士団には普通にいるけど。ホラスがおかしい。
「先ほどはありがとうございました。僕がここの局長のサイラス・ホルドーです。ご用件は何でしょうか?」
サイラスは人のよい笑みを浮かべて私の前の椅子に座った。
「先ほどのことで、拐われたのが私の妹であったことはご存じですよね」
「ええ、真っ先に誘拐犯のところに向かわれて捕まえたと」
私は黙ってうなずいた。
「さすがに妹を拐われた兄が黙っているわけにはいきませんし、被害者も他に多くいるでしょう。手を貸していただけませんか?」
「そういうことでしたら、喜んで手を貸します。我々は何をすればよろしいのですか?」
「騎士団の人手を貸していただきたい」
「人手、ですか。ええ、この屯所にいる者であればいくらでもお貸ししますよ」
「私が知りたいのは誘拐犯達が拐っていった者達が集められる奴隷市場です。私が聞き出したことはあの誘拐犯達がエミネ峡谷で奴隷商と落ち合うということ。そこから奴隷市場の位置を突き止めることができれば、あとは騎士団の方々にお任せします。その人手です」
「しかし、場所を突き止めるにあたっては、どのようにするおつもりですか?まさかお一人で向かうのですか?」
「はい」
サイラスはかなり驚いているようだった。
そもそも奴隷市場は一つ解体させるだけでもかなりの手柄とされるもので、発見が最も難しいものとされる。発見さえしてしまえば潰せるから。
「そのために、先ほど捕まえた誘拐犯をお借りします」
私がそう言ったときのサイラスの顔はしばらく忘れられそうになかった。
私はサイラスに案内されて、誘拐犯どもの捕らえられている牢に向かった。
精霊使いの方は別で捕まっているのだろう。四人いたはずの誘拐犯は三人になっていた。
三人は私を見てびくりと身体を震わせる。
「あなたたちに頼みがあって来ました」
にこやかに笑って誘拐犯どもに話しかける。本当なら笑いたくもないんだけど。
「はあ?補佐官様が俺らに何の用だ?」
私が誰なのか分かったらしい。誰かが教えたのかな。
「簡単なことです。もし成功すればあなた方の真っ当な働き先、紹介しますよ」
三人は顔を見合わせて最後、疑わしげに私を見た。
「真っ当な働き先だぁ?信じられるかよ。俺らが拐ったのはあんたの妹だって話じゃねえか。それをあっさり許すってか?」
「元凶を叩き潰せるなら文句はありません」
私は意味深げに笑った。




