弟から見た兄
ここから本編です(。-∀-)
そのあと、僕達たちは少しルナのお店を覗いて次にルラの働いている食堂に向かった。
事情が事情だったしで、店長に今日はもう上がっていいと言われた。
なので僕も姉……いや、兄と妹のミゼルと一緒に昼ごはんを食べることにした。
今ではもう姉のことを兄と呼ぶのに慣れた。
兄と呼ぶように徹底的に教育?されていた僕たちは、兄が姉だということは忘れてはいない。
ただ、姉のねの字を言おうものなら姉の精霊に攻撃されたので、もはや癖のようになってしまっただけだ。
ルナはそのまま仕事、アレスも鍛治場に戻っていった。
お店に入ると、入り口でルラが迎えてくれる。
お昼時だから席はほとんど埋まっている。少し待たなければなりそうだ。
「あっ、レゲル様いらしたの?どうぞどうぞ、席は開けてありますから」
ルラの横に立っていた女の人が愛想よく笑う。来るってルラが教えたのかな。給事の女の子たちもちらちらこっちの方を見てる。
「ミゼルは大丈夫?さっきお店に来た友達から聞いたの」
ルラはミゼルの顔を覗き込みながら言った。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが助けてくれたもん」
「薬の後遺症も無いみたいだし、安心だよ」
兄がそう言うと、店内……主に女の子たちが声をあげる。
「妹さんを助けるために誘拐犯に立ち向かう兄……」
「羨ましいわぁ。そんな兄がいたらいつでも助けてくれそうじゃない」
ひそひそと囁き合う声がはっきり聞こえる。兄にも聞こえてるだろうけど、顔を見ると全く聞こえてなさそうにしていた。
目が合うと、僕にしか見えないように小さく苦笑いを浮かべて席に向かっていった。
席に着いて、ルラに渡されたメニューを眺める。
ここは昼は普通の食堂に、夜は居酒屋になるお店で、メニューはごく普通のものだ。
三年前ならこんなところであっても外食は絶対にしなかった。
もったいないからとお店の残りをもらったりしてなんとか生活していたのだ。
そういうわけで、兄……姉にはとても感謝している。
僕たちが今の仕事に就けているのも姉がいたからだ。
仕事を見付けようにも、両親がいないために身元のはっきりしていなかった僕たちはなかなか雇ってもらえず、やっと雇ってもらっても辛いわりに低賃金の仕事しかなかった。
姉が王都で仕事に就いてからは、姉からの仕送りのお陰で以前よりは少し楽になったけれど、いつまでも姉に頼るわけにはいかなかったから僕たちは今まで以上に仕事を探した。
そんなときに姉はこの国の宰相様の補佐官になり、出身がここであると話題になり、僕たちがその補佐官の弟だとわかり、それだけで僕たちの身元は保証された。
それから送られてくる姉からの仕送りは今までの倍以上になり、姉のおかげでしっかりした仕事を得たばかりの僕らはさらに萎縮することになった。
ありがたいのだけれど、使うに使えなくて困った。
それに姉だけは僕らと違って、同じ父親の兄弟がいない。
僕にはルナとルラがいて、アレスにはミゼルがいる。
異父兄弟同士にしては姉とは仲がいい方だろうけど、なんとなく姉とアレスとミゼルの僕らに対する態度は僕がルナとルラにとられる態度とは少し違う。
本当に僅かな差しかないのに、どこか小さな溝があるようだった
もちろん、姉とアレスとミゼルのことは好きだ。ルナとルラと同じくらいに。
不意に兄はなにもない方を見ると、話している女の子たちの方をちらりと見て、呆れたようにため息をつく。
兄の見ていた方に精霊がいたのだろうか。まあ全く僕には見えないんだけど。
「どうかした?」
「いや、ちょっとね」
兄は言葉を濁した。噂話か何かだろうか。まあ兄のことだから慣れてるんだろうけど。




