番外編 デルグとヘク3
訓練場にはどこからか話を聞き付けた先輩がやって来ているようだ。なぜか人が集まっている。
「なんの集まりだ?」
「新人の首席と次席の決闘だとよ」
「なんでまた、訓練だって明日からだってのに」
「部屋だよ部屋、ほらあの一番いいとこ」
「あの部屋?あそこって誰が使うのか決まってるんじゃねーの?」
そんな声が聴こえるが、気にしない。結構アホらしい理由だから。訓練用だという鎧を借り、それを身に付ける。
「そういえば次席なんだよな。どうやって鍛えた?」
俺は鎧を身に付けているヘクに言った。鎧の着方がわからなさそうにしてたし、小柄で正直筋肉とか無さそうに見える。
「……僕の父さん病気なんだ。母さんだけじゃ辛くて、魔物狩りをして報酬貰ったりしているうちにそれなりに」
「じゃあ我流ってことか」
「うん、まあそうだね。騎士の方が収入が安定してるからダメ元で受けてみたんだ」
本人に自覚がないのか。自分の実力がよくわかっていないらしい。他の貴族を押し退けて次席になるくらいだ、俺よりできるのかもな。
俺はちらりと向かいにいるコレンとライドの方に目をやる。次席だからとヘクの実力を見誤っているんだろう。ほとんど俺に警戒しているに違いない。
「ヘク、お前魔物狩りしてたって言ってたよな。魔物をどう思ってる?」
「魔物?畑を荒らしたり人を襲ったり、異質で迷惑な存在……かな。まあ、僕にとっては収入源だったからいなくなられると困るんだけど」
最後は言いづらそうにしていた。まあ複雑な気分だわな。
「じゃあ、あいつらのこと魔物だと思えよ」
「えっ?だって彼ら人だし……」
「お前な、あいつらに散々馬鹿にされて悔しいってさっき言ってたろ。お前にとっては迷惑でしかないし、魔物同様、勝てば報酬……いい部屋が手に入るだろ。どこが違うんだよ。むしろむやみやたら襲いかかってくるだけの魔物のよりたちが悪い」
こいつのこういうところは悪くはないんだが、いつか困るぞ。
「手抜いたら勝っても負けても一言も喋らないからな」
ヘクは少し驚いたように目を開いたが、すぐに表情をもとに戻した。
「わかった、彼らは魔物だと思えばいいんだよね」
そう言ってヘクはやつらの方を向いてなにやらぶつぶつ言い始める。
「彼らは魔物、彼らは魔物、彼らは魔物……」
少し、寒気がしたが気にしないでおくことにする。
そうこうしているうちに、決闘とやらが始まった。
ルールは単純。相手を転ばせるか気絶させる、ただそれだけ。
転べばほとんど勝ちは決まる。そこに剣を突き付ければ勝利だ。
二対二の決闘って本当はもっと作戦とかいろいろあるんだが、ヘクとは今日出会ったばかりだからそんな細かく立ててなどいない。向こうもそれは同じだろう。
少しはなれたところに向かい合って立つ。
先輩の開始の合図があった。
先に動いたのは向こう、真っ先にヘクを狙っていく。先に倒して二人がかりで俺とやりあおうという魂胆だろうか。
もちろん黙って見てるわけはない、ヘクを狙ってはいるが、俺のことを十分警戒して動いているはず。わりとあっさりと攻撃を流すヘク、そして反撃。
小柄なわりには重そうな一撃がコレンを襲うが、首席なだけあって受け止めていた。
コレンはいったんヘクに任せて俺はもう一人、ライドに向かって攻撃を仕掛ける。そういえばこいつの成績知らないな。
「げっ」
……拍子抜けするほどあっさり転びやがった、立ち上がる暇なんて与えるか。なので勢いが止まらない風を装って頭に一発食らわしてやった。防具をしていても痛そうに頭を押さえるライド、それでもなぜか起き上がろうとするのでもう一発。
ここまでやればさすがに負けを認めるだろ。俺はヘクの方を向いた。
まだ打ち合いは続いており、ヘクがコレンの攻撃を全て受け止めていた。
攻撃は全てきれいに流している、なのになぜとっとと攻撃しないのか。
そう思って見ていると、不意にヘクが攻撃を流すのをやめて、一歩後ろに下がり攻撃を避けた。
「へっ?」
間抜けな声をあげるコレン、自分の攻撃がだんだん単調なものになっていっているのに気付かなかったようだ。少しよろめいた隙を疲れて派手に転ぶ。
同時に笛が鳴り、決闘終了を告げた。そして起こる大きな拍手。
ヘクの方を見ると、ヘクは口の端を少し上げて笑っていた。
そして決まった部屋割り、俺は備え付けのベッドにごろりと横になる。
「なあ、さっきのだけどお前なら攻撃流さなくても行けたんじゃないのか?」
「えっと、あれは魔物相手によくやってたんだ」
「……本当に魔物扱いしてたのか」
ちなみにライドはともかく、コレンは決闘が終わると物凄くばつの悪い顔をしていた。まあ首席が次席にあそこまで無様にやられてどんな顔をすればいいのかわからなかったんだろう。他のやつらに囲まれた俺たちの方を見もせずに足早にあの場からいなくなっていた。
ちらりと他の部屋を覗かせてもらうと、この部屋のよさがわかる。ベッドも少し上等品だし、広いしバルコニーもある。
すっきりした気分でベッドの上でごろごろしていると、ヘクがまだなぜかおろおろしているのに気付く。
「どうした?」
「いや、僕みたいなのがこんないい部屋に泊まっていいのかなと思って……」
「なに言ってんだよ。お前が首席から勝ち取った部屋だぞ、お前はもっと自信持った方がいいぜ。ほらよ」
俺は上半身だけ起こしてヘクの方に手を伸ばす。
少しぽけっとしていたヘクだったが、その手の意味に気付いたのか、おずおずと手を伸ばして俺の手を掴む。
「よろしくな」
「うん」
そして、おもいっきりその手を引っ張った。
ベッドに倒れ込むヘク、まったく警戒していなかったのであっさりと引っ張れた。思わず笑いが込み上げてくる。堪えきれず声をたてて笑うと、ヘクがぶすっとした顔をし、そして俺と同じように声をたてて笑い始めた。
こいつとはいい友達になれそうだと思った。
番外編終了です(*^^*)
ありがとうございました
またどこかでやる予定です(ゝω・´★)




