番外編 デルグとヘク2
当のヘクはおろおろしながら俺たちのやり取りを見ていた。お前もなにか言ってやれよ、フォローくらいしてやるのに。
「そういうわけじゃない。こんな下らない見苦しいことがこれからもあるのかと思っただけだ。構わないだろ?」
「デルグはそんな平民と同室になる必要はないだろ」
これは、放っておいたらいじめに発展しそうな勢いだ。このまま俺が引き下がったら確実にヘクはいじめられる。
「そ、そうです、僕は別に……」
ようやく口を開いてそれか!本当にお前はそれでいいのか?本当にこいつはいじめられるぞ。これほど格好なターゲットはいない。
「あんたは貴族と同室になれて、俺はこれ以上見苦しいものを見なくてすむ。一石二鳥だろ?」
さすがに男は怒っていた。まあさんざん見苦しい見苦しいっていい続けたし、これで起こらない奴はいないだろ。
これ以上続けるのは時間の無駄なので、俺はヘクの手を無理矢理引っ張り教官のもとに連れていく。見ていたやつらはみんな道を開けてくれる。
「というわけで、俺とこいつ、同室にしてくれませんか?」
教官はこんなことになるとはとぶつぶつ言いながらも、部屋割の紙に変更事項を書き込んでいた。
「……あ」
小さく何か呟く教官。
「コレン、ライド、こっちに来てくれ」
何かしらあったのだろうか、そしてあの男はライドというのか。
「何ですか?」
「いや、部屋なんだがこの二部屋少し違いがあって……」
そう言って宿舎の間取りを見せてくれた。
教官が指差したのは二つの部屋、一つは角部屋で、バルコニー付きの広い部屋。もう一部屋は他より少し広いけどごく普通の部屋。
どうやら部屋が全く違うものになるらしい。ごく普通の部屋の方は、同じようなのが集まっている、おそらく平民騎士用の部屋。しっかり差別されていた。
たぶん俺たちはこっちの、バルコニー付きの方になる予定だった。でも問題が発生して、どっちをどの部屋にすべきかということになった、と。そういうことか。
「平民がいるならこっちの部屋から僕らじゃないんですか?」
そう言ってよい方の部屋を指差すコレン、そしてそれに賛同するよううんうんとうなずくライド。
貴族の数で決めろということか、下らない。こいつらやっぱり自分のことしか考えてないんだな。
「うーん、でもねえ」
ちらりと俺を見る。俺の家柄を知っていて判断しかねているのだろう。やっぱりこれがものを言うのか。
だが、ここで引いたらこいつらの思惑通りになってしまう。癪にさわるな。実力で次席になれるくらいだ、たとえ平民でもいい部屋になる権利はヘクにだってある。
「俺たちは騎士です。どうせなら強い方がこちらの部屋になるべきでは?」
明らかにこの部屋が一番いい部屋だ。他の部屋はバルコニーがあっても角部屋じゃなかったり狭い。
「それは名案だ。だが、勝負は何をするつもりだ?」
「せっかくですから、二対二で決闘にしませんか?お互いの強さがわかるでしょう」
実力で次席になれたくらいだ、ヘクは決して弱くないはず。
「待ってください、なぜこんな……」
「なんだ、勝てる自信がないのか?」
ニヤニヤ笑いながら言ったので、相当怒っている。まあ気にしてないけどな。
「じゃあそれでいくか。異例だが、まあそれが一番公平な決め方だな」
訓練場を借りられるか訊ねに行くと言って教官はいなくなってしまった。訊ねに行っている間にお互いに話し合いでもしてこいということなので、俺とヘクは右の部屋の端、コレンとライドは左の部屋の端に移動して話し合いを開始。
「お前、なにができる?」
まだ状況が理解できないといった感じだが、時間もあまりなさそうなのでさっさと作戦を立てよう。
「僕はその、剣術くらいしかできないよ」
「剣術だけ?筆記試験は?」
「勉強したからそこそこ解けたよ……それがどうしたの?」
筆記試験はそこそこ、それで貴族を押さえて次席、剣術は相当なものなのか。
「なら大丈夫だ。お前はいい部屋に行きたくないのか?」
「僕は平民だし、そんなこと」
「身分なんて関係ないだろ。いい部屋、行きたいか?」
少し迷って、ヘクは小さくうなずく。
「決まりだな。絶対勝つぞ。貴族相手だからって遠慮するな。あんなこと言われて悔しいだろ」
また小さくうなずくヘク、やっぱり辛かったんだな。
「俺がいてやる、お互い本気で行くぞ」
そこで、許可が取れたと教官が戻ってきたので、俺たちは訓練場に向かった。
本当は明日から使う予定だった。初めて訓練場を使う理由が訓練じゃなく部屋争いだとは、なかなか面白い。
(。-∀-)むふふ
私も好きな小説とかを読むときこうなってますね
感想やメッセージいただいてもこんな感じになります(。-∀-)
2話で終わる予定だったのに1話長くなりました。こいつら勝手に(脳内で)動き回ってるんだもん(;・∀・)
かわいいものです




