番外編 アル目線
ただでさえこの精霊使い、レゲルの精霊の数に驚いていたばかりなのに、今から試合?
負けるだろこれ、負けるしかないだろ!
俺は自分の使役する水精霊を見る。普通に比べればだいぶ上位の精霊だけど、相手はこれ以上の上位を四体連れている。一体は中位の植物精霊なんだが。
先輩の合図と同時に、俺の精霊が動かなくなる。そして飛んでいく俺の布………
「えーと、レゲルの勝ち………」
何が起こったのか理解できたのは先輩の声を聞いて数秒後、俺の精霊はレゲルの精霊に捕まって、その間に風で布を飛ばした、と。
しかし、驚いたのは俺だけでなく、指示を出したはずのレゲルも呆然としていた。何をしたのかの自覚がないようだ。
俺は何もできなかったと嘆く精霊を慰めて、まだ若干ぼんやりしているみんなの方へ戻った。
「あの、アル……だっけ」
俺はその日の訓練の間、ずっと黙って試合の進行を見守っていた。みんな可哀想にみたいな目で俺を見るだけで、話しかけてきはしなかったからだ。まあ今日初めて出会ったようなものだから慰められても困るからいいんだけど。
なので、突然のその声に振り向くと、そこにいたのはあの精霊使い、レゲルだった。彼も俺と同じように、というか彼の場合は目も合わせてもらえなかったようである。
「ああ、さっきの」
突然何を言いに来たのだろうか。
「さっきはすみませんでした。まさかあんなことになるなんて思っていなかったんです」
あんなこと……確かに驚いてたもんな。じゃああれはなんだったんだ?
「いや、俺は別に気にしてねーよ。あそこまで綺麗に負けたら悔しいとも思わないというか、まあなんにせよ謝んなくてもいいよ。むしろ凄いもんが見れた気分だ」
俺がそう言っても、レゲルはまだ何か言いたげだ。
「ところであんなことになるなんてって言ってたけど、どういう意味?指示した通りに動いてくれなかったとか?」
「いや、指示した通りなんだけど、思った以上のことをしたというか、何て言うべきかな」
レゲルは何か考え込み、口を開く。
「どうすればいいか聞かれたから、殺さず、先輩の合図があってから布を奪えばいいって伝えただけなんだけど。まさかあそこまでとは思わなくて」
……確かに、指示の通り、精霊は俺の布を奪っただけなのだろう。一番手っ取り早い方法で。
「まあお前は悪くないんじゃないか。精霊だって指示に従っただけだし」
「なら、いいんですけど」
そう言い残して去ろうとするレゲルはさっきと同じように一人だった。これから食事だ。あいつは一人で食べるんだろうか。
「なあ、食堂行くんだろ?一緒に行こうぜ。俺一人だし」
「えっ?」
「ん?」
少し高い、上ずったような声、そんなに驚くことを言っただろうか。
「うっ、嬉しいんですけど、あなたが一人になったのは私のせいみたいなものだし……」
やっぱり俺が一人だったのを知っていたようだ。
「しかも私が引き留めてしまったから、他の人と話せたかも知れないのに」
「別に気にしてねーよ。それにそう思うなら俺が一人にならねーように付き合ってくれてもいいだろ」
そんなことを気にしていたんだろうか。できる精霊使いほど傲慢になると聴いているが、こいつはそんな風では無さそうだ。むしろいいやつだろう。
さっき聞いた話だと彼は庶民の出らしい。別に精霊使で庶民出身は珍しくないからなんとも思わないが、ここまでの精霊使いだったら庶民だとしても図にのって高慢になりそうなものである。
「でも、私は庶民だから身分が……」
「精霊使に身分の高い低いもないだろ。行かないのか?」
彼は黙ってしまった。まさかこの身分が邪魔になるとは。貴族は貴族でも下級貴族だからはっきり言ってどっかの繁盛してる商人の方がよっぽど金持ちだ。
「それにお前、将来大物になりそうじゃん。仲良くしといて損はねーだろ」
笑いなが言うと、彼はようやく小さな声で返事をした。
そして、あいつは本当に大物になっていた。
あれほど実力あるし、馬鹿という訳でもないので、庶民出身でもすぐ出世すると思ってたが、まさかこの国の宰相様の補佐官にまで登り詰めるとは。
同期のやつとかはあいつの実力を知ってるから妬んだりはしなかったものの、一部の先輩方には妬まれている。
まああいつのことだからほとんど気にしてないんだろうけど。
今のところ順調でございます。あと一話完成すればできる……と思う(。-∀-)




