誘拐犯2
とりあえず植物精霊を救出してもらい、次に誘拐犯に目を向ける。
精霊使いっぽい男が自分の精霊がやられたのを見て焦っていた。
「何が起こってんだ!?」
頭領っぽい男が精霊使いの慌てようを見て声を荒げ、持っている袋を揺らした。
袋にはミゼルが入ってるんだぞ。もっと大事に扱え!
普通に戦えば勝てる相手だ。とはいえミゼルがいるのであんまり派手にはできないな。
仕方なく私は氷精霊に男の剣を持った方の手を固めてもらう。
怒ってるっぽいからたぶんかなり冷たい氷を出してるな。
「なんだこれっ!なにしやがった!」
「セルドさんっ、こいつまさかあの精霊使いの補……」
余計なことは言わなくていい。私は精霊使いの男の顔面に水の塊をぶつけてやった。
誘拐犯の火精霊なら押さえつけてある。意外に強い精霊だったみたいだ。まあ私の精霊の敵ではないけど。
「妹は返してもらうよ」
誘拐犯の手から袋を奪って袋を開ける。
口と手が縛られれ眠らされてるっぽいけど、他に何かされた様子はない。ひとまず安心だ。
「で、妹を拐った目的は何ですか?」
頭領以外の誘拐犯を雷で失神させて植物精霊の蔦で縛っておく。
確かセルドだっけ、まあどうでもいいや。
ミゼルは精霊に護らせて私は頭領の尋問を始めた。
「何でってそりゃ目的は一つしかないだろ、売るんだよ」
諦めたのか大人しく白状してくれる。なんだかつまらない。もっと抵抗してくれたらいろいろ考えたのに。
「どこに?以前ここで起きたっていう誘拐事件の犯人もあなた方ですか?」
「さあな、知らね……痛っ」
私は軽く男に電撃を浴びせた。
「正直に言ってください。仮に以前の誘拐事件があなた方でないとしたら、誰の犯行か知っていますか?」
「知らねえよ!これが初めてだ。妹さんも返したし、悪かったからもう許してくれよ」
まあそう簡単には教えてくれないか。
この国じゃ人身売買は違法行為だし、売り場も全然わかってないからな。部外者には絶対に教えるわけにはいかないのだろう。
「この際以前の誘拐事件についてはいいです。どこに売るつもりでしたか?」
どこに、のところを強調して尋ねる。これは重要なことだし。
故郷でゆっくりしにきたのにこれじゃあんまり休みっぽくないなぁ。
「教えるわけねーだろ。何なんだお前!?まさか騎士団の犬か?」
犬とは失礼な。真面目に勤務してる騎士団の人に謝れ。それに私は騎士団の人間じゃないし。
「一応そういう情報は集められるなら集めなければならないので。で、教えるつもりはないということでよろしいですか?教えてくだされば酌量の余地もあったのですが。自分で自分の首を絞めることになりますよ」
この国では表だって認めてはいないけど普通に拷問に近い取り調べが行われていたりする。
暴力は当たり前、精神的にダメージを与えたりいろいろ。
「少し痛い目に遭わなければわかりませんか?」
笑いながら、でも目は笑わせないで男を見る。
男は少したじろいで小さい声で言った。
「……エミネ峡谷」
「エミネ峡谷?あんなところにあるのか?」
エミネ峡谷はここから馬車で数刻くらいのところにある小規模な峡谷だ。あんな交通とかその他もろもろ不便そうな所で人身売買が行われてるのか?
「そこで日入りの刻に捕まえたガキを渡すことになってんだよ!俺はこれ以上知らねえ。もういいだろ?離せよ!」
そんなことか。まあこの男達は誘拐犯の中でもしたっぱの方なんだろう。これ以上は聞き出せそうにない。
私は言われた通り手を離して……電撃で気絶させた。
妹を誘拐した上、少し話しただけで許されると思ったら大間違いだ。
しっかり法的な罰を受けてもらわないと気がすまない。なんならもっとひどい目に遭ってもらっても構わないんだけど。
しばらくして、ようやくこの区の騎士団とルナ、そしてなぜかオルトとアレスもやって来た。あと少し遅れて女の子達。何で彼らも来たんだろう。
とりあえず誘拐犯達を拘束して、眠ったままのミゼルをルナに預けた。
「お兄ちゃん凄いね!一人で倒しちゃったの?」
目を輝かせながらルナが言う。
「兄さん容赦ないね……」
オルトは拘束された誘拐犯達を見てひきつった笑を浮かべた。
特に私が髪を切った男、明らかに変な髪型になってるからね。まあやり過ぎたなんて思ってないけど。
「可愛い可愛い妹を拐った犯人に容赦もなにもないよ。私としては足りないくらいだ」
オルトもアレスも何でそんな反応なんだろう。
「レゲル様、少しお話うかがってもよろしいですか?」
騎士団の人が何人かこっちにやって来た。誘拐犯達はまだ何人か気絶したままで動かせなさそう。
「はい。とはいえ特に変わったことは……私の妹が誘拐されそうになったので追いかけてこうなっただけなんですが」
私達はルナ達から少し離れた所に移った。
「売買目的の犯行ですか?それともレゲル様の妹と知っていての犯行ですか?」
「売買目的だと思われます。彼らは私のことを知らなさそうでしたし、そちらが目的ならこんな人員を使わない」
私は拘束されてる誘拐犯達の方を指した。
誘拐犯は全員で四人だった。今さらだけど全然気にしてなかったな。
「そうですか。では誘拐犯達はこちらで引き取ってもよろしいですか?」
「お願いします」
彼らはどうせしたっぱだ。情報もそう持っていないだろうしあとは専門家に任せよう。
「あの、妹様を連れて明日で構いませんから一度屯所に来ていただけますか?妹様からもお話をうかがいたいのですが」
「わかりました。あっ、このあと屯所を伺ってもいいですか?話があるので」
「ええ、構いませんよ。いつ頃いらっしゃるおつもりですか?」
「昼食をとってから伺います。時間はそうは取らせません」
私はルナ達の所に戻って目が覚めたのかぼんやりしてるミゼルの頭を撫でる。とりあえず無事でよかった。
「ごめんね、私が目を離したから」
もとはといえば私がミゼルを一人でルナのお店に行かせようとしたのが悪かったのだ。
精霊を付けておいたとはいえ、油断はしてはいけない。
「でもおかげで誘拐犯が捕まったんだもん。ありがとね、お兄ちゃん」
まあ無事だったし、いいか。




