年末年始と地元3
その後、一番下の妹ミゼルの手を引きながらルナが戻ってきて、そのあとすぐにオルトが戻ってきた。
みんな同じような反応をしてくれて戻ってきてよかったなとしみじみ思う。
ルラの作ってくれた夕ご飯はこの区の冬の定番料理で、辛味のある香辛料を多めに使ったスープに、芋を蒸して潰し丸めた芋料理。
私が出ていった時とそう変わらない料理だ。うーん、もう少しいい生活ができるはずなんだけどな。まあ節約もいいことだけど。
「美味しいよ。上手くなったね」
「兄ちゃんに誉められると嬉しいよ。でも王都のご飯と比べたらそんなに……」
「そんなことないよ。むしろあっちじゃこういう料理はなかなか食べれないからありがたい」
時々自分でも作るんだけどやっぱり少し違うんだよね。
ここら辺の土って痩せてるからそこでまた味が違う。産地って重要。
「王都の生活ってどんな風なの?建物とかここよりずっと大きいの?」
ルナの無邪気な質問に私は最近あった事を話して聞かせた。
手紙で情報漏洩にならい程度の近情報告はしてたけど、やっぱり直に話す方がいい。手紙じゃ書きにくいことも多いから。
「うわっ、なにこのトカゲみたいなの!?」
私はレルチェを出してみんなに見せた。
知らない人に一度に見つめられてレルチェは私の方に飛び付いてきた。
「ドラゴンの雛だよ。育てることになったんだ」
「ドラゴンってあれ?お話のなかで勇者様が乗ってる翼のあるトカゲ?」
興奮しながらアレスが言う。やっぱり男の子はこういうのが好きなのかな。ルナとルラは苦手なのか少し離れて見ている。女の子だなあ。
「まだ赤ちゃんだから人を乗せたりはできないんだ。それに雛のうちは弱いから驚かせたりしたらだめ」
私がそう言うと、触ろうとしていたオルトが慌てて手を引っ込める。
「あと知らない人にいきなりさわられると噛みつくから、オルトは正しいよ」
もういい加減怖くなったのか、レルチェは私の腕を伝って肩に乗ってきた。小さいからいいけど大きくなったらどうしよう。肩が凝るだけじゃすまないよな。
「みんな明日も仕事?」
「うん。兄ちゃんが帰ってきてるなら休み取ればよかった」
全員が一斉にうなずいた。まあ末妹のミゼルはみんなに合わせただけっぽいけど。
「じゃあ明日は久しぶりに町でも見て回ろうかな」
変わってないから懐かしいものも多そうだ。王都とはまた違うし。
「大丈夫かなぁ?」
「どうかした?」
オルトがぼそっと呟く。
「最近ここで魔物が出たっていうの知ってる?」
ああ、この前読んだ報告書のやつかな。
「知ってるよ。騎士が一人亡くなったらしいね」
「最近この辺り妙なことが起こってるんだ」
「妙?」
「この前なんて誘拐事件が起きたんだよ。殺人もあったし」
ここら辺は貧乏だけど事件はあまり起きていない比較的平和な地区だ。そんなことが起こるなんて珍しい。王都ではほぼ毎日だけど。
「自分の身は守れるから大丈夫。でもそれは妙だね」
「まあ兄さんなら平気かな。みんな少しピリピリしてる」
「そっか……ルナとルラは平気?」
女の子だから余計危ないだろう。今のところ何もなさそうだけど。
「私は平気だよ。だって精霊さんがいるもん」
ルナが言う。
「あれ?聞いてないけど」
「戻ってきた時に驚かせようと思って。雷精霊さんなんだ」
「よかったね」
嬉しそうに報告してくれた。私の精霊にちょっと見てもらったら、力でいくと中の上くらいの雷精霊。一人よりは心強いはずだ。
「だからルナがミゼルを見てくれてたの?」
「そうだよ。ルナ以外はまだ精霊と契約できていないから」
「兄ちゃんみたいに精霊さんと力が合わせられるようになるんだ」
ルナは報告ができて満足そうだ。
「……じゃあ明日は私がミゼルを見てよっか?どうせ町をぶらぶらするだけだし」
「いいの?たまの休みなのに」
「家族と過ごすために戻ってきたんだからそれくらいいいよ。そっちの方がルナも仕事に集中できる。ミゼルは私がしっかり守るから」
そう言ったらみんな納得してくれた。
明日が楽しみだなあ。仕事も忘れられそう。




