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実家2

三日後、昨日の夜に整えた旅支度を持って、私は宿舎を出た。

カーレル様には昨日の仕事明けに休みのお礼とかいろいろ伝えてきたから、気兼ねすることなく出発できる。

その時にお土産にでもということで、有名店のクッキーの詰め合わせを貰った。

缶に詰めてあるから割れたりはしないだろう。ありがたく頂いた。

そういうわけで、私は手に荷物とお土産を持って王都を出てすぐのところにある馬車の停留所にやって来た。

ここからは一日二本馬車が出ていて、家のあるハセ区にも停まるからちょうどいい。

この時期は帰省する人も多いから多少普段よりも多い本数出るそうだけど。

あまり目立たない格好をしてるから一般人の中でも浮かないはずだ。

馬車の先に座っていた御者にお金を払って馬車に乗り込む。

早いうちに来たから席は空いている。

私は一番端の簡素な椅子に腰を降ろした。

お尻が痛くならないようにクッションが敷いてあるが、長年使われてきたせいかとっくにぺたんこになっていてあまり意味がない。

この馬車はレルチェの故郷ともいえるザンテ区を経由し、その後いくつかの区を通ってからハセ区に到着する。

朝一番の馬車に乗ったけど、ハセ区に着くのは昼になりそうだ。

途中で一度休憩地点があるのだけれど、特に何もない、食べ物を買う程度の場所だそうだ。

気付けば馬車の席は全て埋まり、鈴が小さく鳴って馬車は動き始めた。



王都を出てしばらくすると、あまり舗装のされていない道に出たのか凄いガタガタする。

バランスがとれないというほどでもないけれど、このところこんなに揺れる馬車に乗ってなかったから慣れない。

少し贅沢な身体になってきているようだ。

外を見ると、かすかに雪が降っていた。どうりで寒いわけだ。

ふと、昔のことを思い出す。

確かあの日もこんな感じの雪の日だったな。

私は窓の外を眺めながら母が死んだ日のことを思い出した。



わずかに雪の降る夜、いつものように働いてくたくたになった母はそのままベッドに横になってしまった。

夕食は働いている食堂で余り物をいただいて帰ってきているらしいので心配していなかった。

それでも一応確かめようと声をかけると、とても弱々しかったが、返事が帰ってきたので私も寝てしまった。

今思えば、なぜ私はあのときの母の異変に気付けなかったのだろう。

普段よりも明らかに弱々しい声色、疲れている以上のことがあるとしか思えないのに。

次の日の朝、起きて母を起こそうとすると母は冷たくなっていた。

医者を呼ぼうと弟は言ったけれど、既に母の息がないのはわかりきっている。

今さら医者を呼んでも無駄だった。

それに呼ぶだけで高い医者を呼ぶなんてことは、これからのことを考えれば絶対にするべきではないことだ。

兄弟たちのなかで私が一番冷静だったな。

お葬式もとてもじゃないがまともにできていない、神官を呼ぶ暇もなくてみんなで穴を掘って埋葬しただけだ。

さすがに近所の人や母の働いていた食堂の人は来てくれたけど、本当にそれだけだった。



その頃からかな、道端や茂みにいるものたちが見え始めたのは。

一応精霊っていうものが存在しているのは知っていたけど、こんなに見えるのはおかしい。

そう思ってしばらくはどうすればいいのかもわからなくて無視してた。

でもある時、寂しかったからなのか、近くに寄ってきていた植物精霊に話しかけていた。

その時に初めて私は精霊と契約したのだ。

それから私は精霊に興味をもって、時間を見つけては精霊について調べてた。

といってもそうたいした情報は得られなかったんだけど、基礎知識くらいは身に付いたと思う。

何体もの精霊を毎日見ているうちに、精霊たちの力がなんとなく感覚で測れるようにもなり、私は力の強い精霊を選び出していき、最も力の強い精霊と契約していった。

自分が普通でないことは薄々感じていた。

普通はこんなに選べるほど精霊が見えるはずないし、精霊と複数契約しているのに時々見る精霊の奇行以外は何の苦労も感じない。

そんな頃に精霊使という仕事の存在を知った。

国に認められた精霊使いの集団で、家柄も生まれもなにも関係なく出世していける特別な場所。

そこに行こうと思ったものの、女がなる仕事でもないらしく、出世も女だと遠い。

母のなけなしのお金もとうに底をつきて、弟がなんとか手にいれた仕事も運悪く親会社が倒産してなくなってしまい、本当に危ない状況だった。

私は伸ばしていた髪を切って売り、それを旅費にして王都に向かった。

貧乏な人は出来る限り髪を伸ばし、それを売って稼ぐことも多かったので、私は何の躊躇いもなく髪を切った。それが初めてじゃなかったし。

弟と妹もそれを止めようとはしなかった。

止める理由もなかったんだろうけど。



なんとか王都にたどり着いた私は精霊使の試験を受けた。

男として。

というか、試験を受けるために受付に行ったら何も言われず男として出願してもらえた。

結果はよしとしても少し傷付いた。

一般常識の試験はけっこう空欄だらけだったっけ。

字は読み書きできたけど問題がさっぱり分からなかった。

もちろん今なら普通にわかるだろうけど。

まあ私が精霊使の試験に受かった理由はもちろん実技の試験兼面接の成績で、後から聞いたところ、実技だけは最高で、筆記は下から三番目らしい。

私より下だったってどれだけ悪いんだろ。あれだけ空欄あったのに。

そんな感じで今に至る。

気付けば宰相様の補佐官になってて、故郷に帰るのも一年ぶり以上だ。

最近は弟と妹とも手紙のやりとりしかできていないけど、私の出世を一番喜んでくれていたことは伝わってくる。

久しぶりに会えるのが楽しみだ。

しかもドラゴンの雛もつれてるからどれだけ驚かれるだろう。どんな反応があるのか待ち遠しいな。

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