実家
もうすぐ年末だ。
パーティーでの騒動以降、ゲーテや他の組織に大きな動きもなく、いたって平和な日々が続いていた。
年末かぁ……去年は王都での新年の祭典とか大祭で忙しくて新年の祭典に出てたのにまったく年が変わってくのを感じられなかった。それって意味があるのだろうか。
最近の書類にも大祭と式典の警備や来年度の予定確認の書類が増えてきた。
警備に関しては去年より配置を大きく変更し、数も増やされている。
まだパーティーでの襲撃の警戒が解かれたわけではないからだ。
そういえばクラヴィッテ殿下はどうしているのだろう。
なぜか端から見ていてとてもいい仲のように見えたのに、フェターシャ嬢の方が迷っているようでそれ以上進展はしていないんだとか。
カーレル様の方を見ると、いつものように手早く次々に書類を片付けていっている。
働く姿はカーレル様を目標にしようかな。私もあれくらいできるようになりたい。
「そういえばレゲル君、年末に何か予定していますか?」
「えっ?年末ですか」
「ええ、年末です」
年末の予定?去年と同じで祭典とか大祭に出席するんじゃないんですか?カーレル様は知ってるはずだけどなぁ。
「去年と同じでしょう?」
「なら今回は参加しなくて結構ですよ」
「へ?……私、何かしましたか」
去年のことを思い出してみる。
カーレル様の後ろにぴったり付いて、特にヘマをやらかした覚えもないんですけど……
「いえ、君は初めての出席にしては上手くできていましたよ」
「ならばなぜですか?」
「君は私の補佐官になってまだ一度も戻っていないでしょう?」
「戻る?」
「兄弟のところにですよ。忙しかった上、有休も使っていませんし」
そういうことか。確かに補佐官になってから手紙のやり取りくらいしかしていなかった。
一応月に二、三回は手紙を貰う。
みんな元気にしているそうだ。
「しかし、祭典には参加……」
「私が言っておきます。それに君を休ませた方がいい、見るたびに仕事をしている、とナルシアや宮殿のメイド達が口を揃えて言うものですから。休みの日でもレルチェのために竜舎に通ったり王宮の書庫に行ったりしているのを見かねたようですね」
レルチェはカーレル様のお土産ですよね。もとはと言えばカーレル様のせいでしょう。
……まあ可愛がってますけど。自覚はあります。最近はより学習能力も高くなり、甘えたい盛りの真っ只中。可愛いに決まってる。
「手紙のやり取りだけでは物足りないでしょう。会いたがっているでしょうから年末くらい戻ってもいいと思いますよ」
カーレル様は書類から顔をあげて言っている。普段なら顔なんてあげずに話すから、結構真面目に話しているようだ。
「戻りたいのは山々ですが、年が明けてからでも戻れますよ」
補佐官というのは宰相様の護衛も兼ねていると聞いている。だからある程度腕っぷしも必要なのだとか。そのせいでこの補佐官の制服には武器を隠せそうな場所があるんだろうな。
「レゲル君、私も一応武術のたしなみくらいあります。自分の身は守れますよ」
……そうでした。
カーレル様は体術や剣術は私よりうえの実力者だった。それに私がいなくてもカーレル様だし、それなりの護衛がつくよね。
まあせっかくの機会だし、久しぶりに戻ってみようかな。
「お言葉に甘えて」
「君の有休は十日ほど残っています。いっそ全て消化してきてはいかがですか?」
「何かあったときのために三日ほどに……」
「何を言っているんですか。使わなければ消えてしまうんですよ。せめて七日ほど取っておきなさい」
……これは何を言っても無駄っぽい。
カーレル様のせっかくの好意を無駄にするわけにもいかないし、休もうかな。
「では年末は休ませていただきます」
「ええ、お土産でも買っていってあげてください。では……三日後からですね。そうすれば年明けの最後の祭典には参加できますよ。さすがに全て休むのは困るでしょう」
「ありがとうございます」
さすがに全て休むのは申し訳ないからよかった。カーレル様が素晴らしい上司に見える。
まあ素晴らしい上司なんだけど。
私は三日後からの思わぬ休みにウキウキしながら仕事を再開した。
それまでしっかり仕事をしていこう。




