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ハンカチ5

レゲル様を見送ると、部屋が一気に色褪せてしまったかのようにすら見えます。

私は手に持ったままにしていたハンカチの箱を開けてみました。

隅に小さな黄色い花の刺繍されたシンプルなハンカチです。

「ミモザ……?」

刺繍されていた黄色い花はミモザでした。

確か花言葉は『秘密の恋』で、なかなか思いを伝えられない相手に送る花。

とはいえ、花言葉なんてどの花にもあるのでいちいち、特に男性は考えないことも多いらしいのですが。

レゲル様も特に何も考えることなくこれを購入したのだろう。もし知っていたらこんな花の刺繍されたものを送らないはずです。

「お茶をお持ちしました」

扉が開き、盆にお茶のカップを乗せてメイドのサリサが入ってきました。

机の上にお茶をセットしながらサリサは言います。

「先ほどいらっしゃったレゲル様の渡したいものとはなんだったのですか?」

「先日のパーティーでレゲル様にハンカチをお貸ししたらそのお返しにとハンカチを頂いたの」

そう言うと、サリサは羨ましげに目を細めた。

「あのレゲル様から贈り物を?」

「とは言ってもお返しよ」

「メイドの間で少し盛り上がっておりました。なにせあのレゲル様ですからね」

「メイドの間でもそんなに人気が高いの?」

女性に人気が高いのは知っているが、メイド達にまで人気なのでしょうか。

「それはそうですよ。仕事ができて気配り上手、顔も悪くないなんて揃えば人気ですよ。今は誰でも手を伸ばせる身分ですし、しかも歴代最高の精霊使いだなんて……私も憧れます」

そう言いながらもしっかり手は動いていたようで、いつの間にかお茶の準備が終わっています。

「ありがとう。ところでサリサ」

「はい、なんでしょうか?」

「恋をしたことはある?」

「へっ?」

そんなに驚かれることでもないと思うけど。そんなに意外だったかしら。

「誰かを素敵だなとか、思ったことはある?」

そう言うと、サリサはかっと頬を染めた。

「どなたなの?」

まさかこんな反応が返ってくるだなんて思ってもみなかった。誰なのかしら。

「それは……それよりもフェターシャ様には殿下がいらっしゃるのでは?」

「えっ……」

メイドたちの間でも話題になっているのだろう。ばれていないのはいいけど、ここまで広がってたら話が進んでしまうような気がします。

「なぜ迷っているのですか?」

「いいの、もう少し考えてから決めるわ」

私はサリサに一人にするように言って、部屋に一人残りました。

サリサの準備していったお茶を手にとって飲む。

周りはやはり私とクラヴィッテ殿下が良い仲だと思って変わらないようです。

確かにパーティーでお話をしたときは素敵な方だと思ったのだけれど、あの出来事の後のレゲル様には敵わない。

少しでも良く見られたくてハンカチを渡したり父上や母上は良く思わなかったみたいだけど、お手伝いもした。

それなのに、当のレゲル様は女性にまったくと言っていいほど興味が無くて、養子などの話も断り続けているんだとか。

物語のヒロインたちはどうやってこういう状況から両思いになっていったのかということがふと頭に浮かぶ。

どうせ縁談結婚だろうなと思っていたからいざ自分となると考えたこともありません。

不意に、部屋の隅に黒い影が見えました。

最近なぜか見え始めた影はふと気づくといつも私のまわりのどこかにいる。

精霊ではない、『邪精霊』という精霊と付いているけれど、精霊とはまったく別物のモノ。

いつからか見えていたんだろう。

この邪精霊は一体でも精霊と契約している人の前には現れないと言われていて、このモノに憑かれると、身体から徐々に生気が抜き取られていき、意識が消え去り最悪死に至る、そんな存在。

しかも邪精霊は他の邪精霊を近くに呼び込むとも言われていて、不吉の象徴でもあるそうです。

だからこそ、父上や母上に話しかけることも憚られ、誰にも相談できませんでした。

それにまだ憑かれてはいない。何となくだけど、これだけはわかります。

少し殿下とお話したとき、少しときめいてしまって、恋だと思った私は殿下に相談してみようと思ったのだ。

そしてレゲル様を紹介されて、結局相談できなかった。

「何でさっき聞かなかったのかしら」

こんな大事なことがすっぽりと頭から抜け落ちてしまっているだなんて。

私は部屋の隅から目を離して、もう一度お茶を啜る。

今度レゲル様にお手紙を出してみよう。




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