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ハンカチ4

それからはしばらく他愛ない話をしていました。

とはいえ私とレゲル様に共通の話題があるわけでもないので、すぐに話が尽きてしまいます。

その時、ちょうどレゲル様が机の隅に置きっぱなしになっていた本に目を向けます。

「これはどのようなお話ですか?」

タイトルは『竜姫と射手』、竜姫と呼ばれるお姫様がある時出会った射手に恋をするというお話だ。

射手は実は隣国の王子様でした、という王道のオチがあり、女子の間で密かなブームとなっているらしい。

「よくある恋愛小説ですわ」

「フェターシャ様でもそういう恋愛に憧れるのですね」

憧れているに決まっています。

十歳の頃、乳母のエレミが父上や母上に秘密でこっそりと恋愛小説を持ってきてくれたのです。

そういう本を今まで読ませてもらったことはなかったから、あまりにも面白くてその日の内に読破してしまいました。

隣国の王子様に恋したお姫様のお話で、今思えばありふれたものだったけれど、当時の私にはどれも新鮮なお話でした。

そのあとしばらくして、私には恋愛というものにあまり縁がないということを知りました。

お友達と話していた時、少しだけ恋愛の話が持ち上がった。

けれどほとんどが縁談に関してで、親が決めてくれる、もっといい縁談がある、など、結婚は親が決めるということを改めて知ったのです。

「以前クラヴィッテ殿下とお話なされていましたが、よい雰囲気でしたよ」

「ええ、素晴らしいお方でした」

確かにあの時は殿下と、いわゆるそういう展開を予想した。

でもそのあとの出来事でレゲル様に助けられると、こちらの方が魅力的でした。

危ないところを身を呈して守ってくれた、まさに私の憧れる『出会い』で、レゲル様が本物の王子様より王子様に見えたのです。

「確かに殿下は素晴らしいお方です。フェターシャ様はお綺麗ですから、きっとどこへ行っても幸せになれると私は思っています」

父上も母上も、あのあと私と殿下のことを聞かれた。決まらないって言ってなんとか乗り気になっていた父上を止めたけれど、いつまで持つのかわかりません。

「私は……」

「あまり長い時間フェターシャ様の読書の時間を邪魔してしまうわけにはまいりませんので、そろそろ失礼します」

部屋の隅にかけてある時計をちらりと見て、レゲル様は言います。

「そんな邪魔だなんて……」

「楽しい一時でした、本当にありがとうございます」

言うなりレゲル様は立ち上がってしまった。もう帰ってしまうのだ。

とはいえ、レゲル様も忙しいお方だ。引き留めるなんてことは出来ません。

私はなんとか笑顔を作り、レゲル様を見送りました。




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