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ハンカチ3

部屋で読書をしていて、突然メイドのサリサが入ってきて何事だろうと思ったら、我が家の玄関にあの方……レゲル様がいらしているとか。

「えっ?」

思わずそんな声を出してしまった。

「渡すものがあるとおっしゃっているそうですが、私が受け取ってまいりましょうか?」

そんなことが出来るものですか。わざわざいらしてくださっているのに。こんな機会を無駄にするわけにはいきません。

「いえ、お通しして。幸い時間はありますから」

なんとかいつもと変わらない口調で言うことができた。

あんまり気づかれないほうがいいんだよね。

数分後、とはいえ私にとっては長いよう短い時間だった。

おかしなところがないように服と髪型をチェックして、念入りに全身を見る。

ちょうど髪型を整え直した頃、サリサに連れられてレゲル様が入ってきた。

服装は以前パーティーで見たときと同じ、補佐官の制服を着ている。

パーティーで出会ってからそれとなく使用人達に聞いた話では、普通に優秀な補佐官だそう。

書類仕事も真面目に行い、補佐官に抜擢されてまだ一年ほどだというのに、上流階級のマナーや作法、言葉遣いなどを覚えているそうだ。

かつ優秀な精霊使いであることは風のうわさで聞いていたけれど、それだけではないなにかが彼の中にはあるような気がする。

「失礼します。突然お邪魔させていただき申し訳ありません」

丁寧な所作でレゲル様は頭を下げた。

本当に平民の出であるのか疑いたくなるほど、その動きにはおかしなところがない。

「そんなことはございませんわ。ちょうど時間もありましたし」

「それを聞いて安心しました」

「いえ、そんな……」

私としてはレゲル様がわざわざいらしてくれたことが嬉しい。用事があっても何とかして時間を作るくらいはします。

「ところでご用件はなんでしょう?」

「こちらをフェターシャ様にお渡ししようと」

そう言ってレゲル様は小さな箱をポケットから取り出して、それを机の上に置いた。

受け取ってみると、なにか軽いものが入っているようで、イノグレの印が隅に小さく描かれている。イノグレということはなにか布製品だろうか。我が家がよく利用するお店だ。

「これは……?」

「先日お借りしたハンカチです。とはいえ一度使ったものをお返しするわけにもいかないので、借りたものとは別のものでお返しします。フェターシャ様に似合うはずです」

確かあの時は私も必死だったからなぁ。レゲル様のお友達より先にって思って……

でも今思うと悪いことをしてしまった気がする。

聞けばレゲル様はお給料のほとんどを残してきた家族への仕送りに使っているとか。だから手持ちのお金は大切なもののはず。

私はそれを使わせてしまったのだ。

「お気に召しませんでしたか?」

そんなことはない、レゲル様からいただいたものなら宝物だ。

「いえ、ありがとうございます」

そう言うとレゲル様は安心したようにふっと笑みを浮かべた。

きっとレゲル様はこういう性格なんだろう。

きっちりしていて貰ったものは返す、そういう人なんだ。

そこらの紳士よりよっぽど紳士だ。

そして思い出す、だからレゲル様は女性に人気があるのだ。

金持ちや地位の高い人間はいくらでもいるが、こういう性格は今どき珍しい。

敵は多そうだ。

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