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訪問者7

用意されていた食事はなんとも豪勢なものだった。

野菜がとろとろになるまで煮込まれたスープに濃厚そうなソースのたっぷりかかったステーキ、柔らかそうな白パン。

貴族はこんなに濃そうな食事を毎日摂っているのだろうか。

私の貧乏な胃では持ちこたえられないだろうな。

このメニューを庶民のものにしてみたらきっとスープは具そのものが少ないし、肉は筋が多めの固い肉で、パンも噛みごたえのある雑穀パンだろう。

少なくとも私はそうだった。普段の食事も私はこんな感じだ。

「レゲル君はまだ若いですもの、栄養のある物をたくさん食べてくださいな」

ナルシア様はニコニコ笑いながら私に私の胃には重すぎる料理を勧めてきた。

申し訳ないのですが、それが元で私は体調を崩しそうです。

私がそんなことを思っているとは全く気付くことなく、ナルシア様は隅に控えていたメイドに新たな指示を出す。

「もう少しあるの?足りなそうなら言ってちょうだいね」

それよりも残していいですか、確かに私は痩せてる方だと思う。男にしては若干ひ弱に見えてしまわなくもない。

「いえ、これだけいただければ十分です」

こんなにいらないと言うわけにもいかない。どうしたものか。

「遠慮しなくてもいいのよ。食べられなさそうだったら残してもいいから」

ありがたいけど、貴族の場合何をするにもマナーがついて回るんだよなぁ。

残してもいいけど、最低でも半分は食べ、残し物も盛り付けをあまり崩してはいけない、など、ややこしいマナーがいろいろある。

成長期のティグルスがいるからこそのこのメニューなのだろうが、私はもう成長できないだろうからなあ……

私はナルシア様に勧められるがまま、目の前に並ぶ豪勢な料理を食べる。

口の中に広がる肉汁は油のはずなのにさらりとして美味しい。いいお肉なのだろう。

付け合わせの野菜と、時々スープも飲みながら一緒に食べていくとステーキも半分くらいはなんとか食べることが出来た。

でももうちょっと食べられない。結構胃に溜まる料理だった。

ティグルスは美味しそうにパクパクとステーキを平らげ、私がまだ食べ終わってもいないのにメイドにデザートを取りに行かせている。

「食べられないのか?」

デザートが出てくるのを待つ間、暇なのか私に様子を見て問い掛けてくる。

「美味しいですよ。ですが食べ慣れていないもので……」

「あら、あっさりしたお料理の方がよかったのかしら。言ってくだされば変更できましたのに」

申し訳なさそうにナルシア様が尋ねてきた。

「いえ、このような食事はなかなか食べる機会がないのでありがたいです」

「無理はなさらないでください。お仕事に支障が出てはいけませんわ」

「……ではお言葉に甘えさせていただきます。せっかくのご厚意ですのに申し訳ありません」

物事はタイミング。これで少なくとも無礼にはならないはずだ。

「私達は気にしませんよ。安心してください」

カーレル様も相づちを打つ。

私はふと、皿の下に敷かれた布……こんな小洒落たのは名前がからないのだけど、それに目を向けた。

縁に細い糸で刺繍された模様、どこかで見た……

「あの、この布は……」

「このランチョンマットですか?」

へえ、ランチョンマットっていう名前なんだ……それよりこの模様どこで見たんだっけな。

「どこの商品でしょう?」

「イグノレの商品です」

イグノレ……聞いたことないなあ。絶対高級なのに、どこで……

あっ、昨日フェターシャ嬢に借りたハンカチに刺繍されてた模様だ。

他のものを買って返すって言っちゃったし、お店の場所とか聞いておこうかな。

「イグノレがなにか……?」

不思議そうな表情でナルシア様が私の方を見る。

「実は昨日このブランドのハンカチをお借りしまして、お礼もかねて同じ物をお返ししようと……」

「あら、そうなの?レゲル君なら紹介しますわ」

でも紹介されても行くのは一回きりだし、買うのもハンカチだけだからなあ。

「そういえばそろそろティグルスの部屋を模様替えしなければいけませんわ。お急ぎでないなら一緒に行きませんか?」

それはちょっと……買う量からして絶対違うしなあ。模様替えってことはカーテン一式とか全部だろうし。

「いえ、場所だけ教えていただければそれで十分です」

「そうですか……?場所は王都のサート通りです。この模様が目印ですわ」

ナルシア様は持っていたハンカチを見せてくれた。

このブランドは貴族の間で人気なのかな。私は全くそういうのに興味ないからなあ、だからこんなに女らしくないのかもしれない。




結局、私は食事をすべて食べきることはできず、デザートも予定ではなかったらしいあっさりした柑橘系のシャーベットをいただいた。

その後はナルシア様としばらくお話をしていたら結構遅くなっていたので、私はカーレル様やナルシア様にできるだけ丁寧に礼を述べて、送りの馬車に乗せてもらい、宿舎に戻った。

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