原因2
私は怪我人の治癒の様子を見て回った。
神官があまりいないようで、神官ではない者は何をすればよいのかわからずおろおろしていたり、酷い有り様を直視できず、遠くに離れている者も多い。
不意に、怪我人だらけのこの場所に不釣り合いな姿があった。
薄緑色のドレスが怪我人の間を抜けていく。
フェターシャ嬢だった。
怪我人に笑顔を向けながら濡れたタオルをぎこちない手つきで取り替えていく。
さっき私が言ったことをやってくれていた。なんて素晴らしいご令嬢だろうか。
普通のご令嬢ならこんな有り様は見たくないとさっさと家に帰っているだろうに。
ふっとフェターシャ嬢と目が合った。私がにこやかに会釈すると、ふいと顔を背けられてしまった。やっぱりフェターシャ嬢のような貴族のご令嬢にあんな戦いを見せるべきではなかったのだろうか。
再び手伝いを始めたフェターシャ嬢に笑顔を向けられた怪我人……主に男はぼやっと見とれてろくに礼も言えていない。
いきなり離されて怖かったのと、あちこちに漂う血の匂いにレルチェがキュウキュウと肩に登ってきて寂しそうに鳴いていた。
私はレルチェを安心させるためにゆっくり頭を撫でてやった。
私が頭を撫でてやると安心したように目を閉じる。やっぱり可愛い。
「レゲル殿」
私がレルチェと戯れていると、不意に声がかかった。
見ると警備の騎士が何人か立っていて、服は血で汚れている。
「先程の魔物との戦い、見事でした」
一番年配の騎士が頭を下げた。それに倣うように他の騎士も頭を下げる。
一応騎士団は第二宰相様の管轄内なので、仕事の地位的には私は彼らより上だ。
「顔を上げてください。あの場で戦えるものが戦うのは当然のことです」
「我々が二人がかりで倒した魔物をあなたは一人で二匹も倒された」
騎士は感心するように言った。
「ほとんど精霊のおかげです」
ふと騎士達の方を見ると、奥にいる若い騎士に隠れて見覚えのある姿が目に入った。
「あっ」
そいつは私と目が合ったことで、小さく声をあげてまた騎士の後ろに隠れた。
「デルグじゃないか」
そこにいたのは私が以前騎士団の視察で出会った新人騎士のデルグだった。
「ああ、あの時の」
何人かの騎士が納得したようにうなずいた。覚えている騎士がいたようだ。
「なぜデルグがここに?」
それに彼の服は汚れていない。
「俺はちょうど裏にいて間に合わなかったんですよ。来た頃にはほとんど倒し終えてて……」
だから服に一切血がついてないのか。
「俺も同じくらいにここに来ました。ちょうどレゲル様が魔物を倒し終えたくらいに」
「見られていたのか」
「レゲル様のことはけっこう多くの人が見てましたよ」
言いづらそうに騎士は言った。
「そうなのか?」
「レゲル様は注目されてましたし、クラヴィッテ殿下とフェターシャ様のお二人と同じところにいましたから」
あれだけお似合いで目立つカップルだ。確かにそんなのと一緒にいれば目立っていただろう。
「ですが、あれほどの魔物がなぜここにのうのうと侵入してきたのでしょう?幸いレゲル殿がいて、騎士や精霊使いの方々がいたから死者までは出なかったものの、まるでこちらが大きな失態をしたようで……」
「ゲーテの何者かが魔物をここに誘き寄せたようです。詳しいことはまだ不明ですが」
私の予想はゲーテの誰かがここ数日の間に魔物をいったん森に放って、パーティー当日にあの液体で誘き寄せた、というものだが、これではいくつか疑問が残る。
そもそも、魔物を捕らえておいて森に放っておくという行為から無茶なのだ。放った瞬間魔物に襲われるのがオチで、どのみち放った魔物を殺すことになる。
それに離宮の警備の者が魔物に気付かないということもおかしい。森の見回りくらいするだろう。
「ゲーテの連中が絡んでいるのですか!?」
年配の騎士がいきり立った。
「魔物を呼び寄せるのに使われた液体の入っていたビンのラベルにゲーテの紋章が印刷されていました。それにこのパーティーは王族が集まります。ゲーテが狙うとするなら絶好の機会です」
騎士達はざわついた。
確かに最近ゲーテの活動が再開されつつあるとは噂されていたが、まさかこんなに早く襲われるとは思ってもいなかったのだろう。
このところ魔物被害以外はわりと平和だったから。
「ちょっと待ってください。ゲーテが魔物を呼び寄せたということは、奴等は魔物を操れるのですか?」
若い騎士がふと思いついたように言った。
もしそれが事実なら最悪だ。
騎士達の間に緊張が走る。
そうであってほしくないが、本当にそうであったなら私の予想は当たっていることになる。
考えうるなかで最悪の事態に、私はまた仕事が増えるという妙なところで憂鬱になった。




