王太子の思い2
従騎士のサフェスと共に、神殿にやってきた。
神官たちは突然王太子が来たためか慌てた様子である。
「レネッタが来ているはずだ。どこにいるか知らないか」
近くにいた壮年の神官に尋ねると、神官は視線を彷徨わせる。
「補佐官殿でしたら朝の祈りの時間にお見かけしましたが……仕事がありまして」
「そうか。なら用は無い」
次いでもう一人の若い神官に声をかける。
どうやらレネッタは、朝の祈りが終わってすぐにディーズ副神官長と話をしていたらしい。
もうすぐ正午だ。朝の祈りからそれなりに時間が経過していた。
とりあえず副神官長の執務室に向かうか。神殿には何度か来ているから場所はわかっている。
その時だった。何かが破壊される音が聞こえてきた。
突然の出来事に神官たちもざわめく。
「殿下、あの方向は……」
サフェスが慌てた様子で音がした方を示す。
副神官長の執務室がある方向だ。
『主人殿、先に行ってもよいか?』
精霊王が真剣な表情で私を見る。守るだけで攻撃はしないよう言い含め、精霊王を送った。
精霊王は上の階に消えていく。さすがに壁抜けは無理なので、階段を進んで階段に向かう。
「邪魔だ。そこを退け」
階段の前に神官が並び、道を塞いでいた。
「何が起こっているのかわからないところに殿下をお通しすることはできません」
「今神官が現場に向かっています。安全が確認できましたら案内しますのでどうか……」
大方、足止めしておくよう言われているのだろう。私を上に行かせない理由としてはもっともだが、それで納得はしない。
「婚約者の無事を確認したい。護衛ならサフェスがいるから問題ない。そこを通してくれ」
神官たちはかぶりを振って腕を広げる。
神殿で荒事はご法度だ。無理矢理通り抜けるなどしたくはないのだが、この神官たちは私の話など聞く気はなさそうだ。
「どうしても退かないか」
神官たちは震えながらも頷いた。
仕方ないとばかりにサフェスに視線を送ると、彼は腰に差していた剣の柄を握る。神官たちは身じろぎするが、神殿で剣を抜かせるわけがないとその場を動こうとはしない。
やるしかないのか。私は小さく舌打ちをして、サフェスに囁いた。
「目を閉じていろ」
私は光精霊に命じて、光の玉を神官たちの前で爆発させた。
真っ白い光が眼球を貫くようだった。
目を閉じていても目がチカチカしているくらいだ。まともに見たらしばらく周りは見えないだろう。
神官たちが怯んだ隙に、その間を抜けて階段を駆け上がる。
サフェスも目を瞬かせながら後を付いてくる。
精霊王の姿がなかったから、神官たちは私が精霊の力を使ってくるとは思っていなかったらしいのが幸いした。
目的の階まで階段を登り切り、廊下を走る。
副神官長の部屋は人が集まっていたのですぐにわかった。
廊下には吹き飛んだらしい扉。壁紙は大きく捲れ、窓ガラスも砕けている。そして部屋の中で負傷したらしい神官達が次から次へと担架で運び出されていた。
集まっていた野次馬の一人が私に気がつき、慌てた様子で場所を開ける。それは連鎖し、私は特に誰かを押しのけることもなく部屋に入る事ができた。




