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神殿と噂6

状況を理解するまでにはかなり時間を要した。

私は後ろ手に縛られて、怖い顔をした騎士に無理矢理立たせられる。

どうやら私はまた、嵌められたらしい。

激昂し、精霊を暴走させて無抵抗の神官を害した。そういう役回り。

自分の短絡さに呆れて、抵抗する気力もなかった。どう証言したところで、神殿に揉み消されるのがおちだ。

「……何をしているっ!」

吹き飛んだ扉から入ってきたのはクラヴィッテ殿下だった。その後ろからアルが入ってくる。

急いで駆けつけたのか2人とも息を切らし、私の方を見た。

「レネッタ!大丈夫か!?」

アルが私の方に駆け寄ってきた。そして私を掴んでいる騎士を睨む。

「彼女は悪くありません。離してください!」

「いや、しかし彼女の精霊によるものだと……」

突然の第2王子の登場に驚きながらも、騎士は私の腕を離す気はないらしく、その手の力をわずかに強める。

私の精霊が起こした事態であることは事実なので、私は首を振ってアルに離れるよう言った。

「でも……」

何か言いかけたアルの肩をクラヴィッテ殿下が掴み、それを遮った。

「クラヴィッテ殿下!聞いてください。あの女が突然言いがかりをつけ暴れたのです!止めに入っただけの神官に対してもなお、力を振るったのです!」

ディーズ副神官長は震える指で私を指す。

クラヴィッテ殿下は部屋の惨状をもう一度見回し、怯えた様子のディーズ副神官長につかつかと歩み寄った。

「それどういう事です?ディーズ殿?」

「見ての通りです!あの女が精霊を暴れさせて、怒りに任せて容赦なく部下たちを……痛っ!」

いかにも被害者らしく振る舞うディーズ副神官長に対し、殿下は小さく舌打ちする。そして黙ってディーズ副神官長を殴り倒した。

尻餅をつき、痛みよりも驚きで目を見開くディーズ副神官長のなくなりかけた髪を殿下は掴む。

「馬鹿か貴様はっ!」

そう耳元で怒鳴りつけ、殿下は床に叩きつけるようにしてその手を離す。

「神官ならば!医者ならば!怪我をした部下を真っ先に治療すべきだ!何だその様は?自分だけ無事とは、いい身分だな副神官長」

そう言いながら、殿下は自身の精霊に指示を出し、倒れている神官たちを診ていく。

一通り確認し終えた後、殿下は私の前に立った。

「あなたがやったのか」

「……はい」

不可抗力だ、自己防衛だ、と言ってしまうこともできる。でも、私がやったという事実に変わりはない。

私はまた、人を傷付けた。

「そうか……」

殿下は困ったように頭を掻く。

「あの程度の攻撃も防ぐこともできないとは、神官能力も落ちたものだ」

「いえっ、殿下、彼女がいきなり攻撃を」

へリアルが恐る恐るといった様子で殿下に近付き、低姿勢で弁明するも、それを見下ろす殿下の目は冷ややかだ。

「嘘をつくくらいなら黙っていろ。貴様の目的はわかっている」

「私どもは殿下のためを思って……」

「僕は今、王位に興味はない」

ばっさりと殿下はへリアルの弁明を切り捨てる。

「僕は王太子ではないが、貴様ら2人を潰すなど造作もない。これ以上偽証を重ね墓穴を掘るならば、それなりの覚悟をしておけ」

「ですが、彼女が暴れた証拠があります!彼女は神官たちを害したのです!」

納得できないとへリアルは語気を荒くし、室内を指し示す。

「この職務怠慢の証拠のことか?神殿を預かる者が7名もいて、うち2名は我が身の無事ばかりで他を守ることもしなかったというのに?」

「身を守るために精一杯だったのです……彼女の能力はご存知でしょう」

尻餅をついたままのディーズ副神官長が声を震わせる。

「ああ知っている。だが、精霊使いの彼女を止めるためになぜ武器が必要なのだ?神官ならば、神精霊でどうにかなるだろう。先に彼女を害そうとしたのは、貴様らの方ではないのか?」

殿下の剣幕に気圧されたディーズ副神官長とへリアルは黙りこくった。

そんな2人を一瞥した殿下は、扉の外から中の様子を伺っていた神官たちに指示を出す。

「早く倒れている神官を救護室に連れて行け。後で全員から詳しく話を聞く」

野次馬の神官たちは小刻みに何度も頷き、倒れたままの神官たちを運び出していった。



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