日常は束の間3
まあ、驚きはしない。イグルドが話した昔話を思い出す。アリュの前にあった国、エディスの最後は精霊王によってもたらされたという話だ。
イグルドが知っているのだから、それ以外に誰かが知っていてもおかしくはない。この方は精霊院の院長だし。
「君をわざわざ呼び出したのは、精霊王の暴走について尋ねたかったからだ。君は精霊王と契約はしていないのだろう?」
「はい。一応精霊王の方から声はかけられましたが、断ったので」
「精霊王の誘いを断るとは、君らしい」
私はいったい、コルネル院長になんだと思われているんだろうか。まあ、今はそれは置いておこう。
「……そうだ、アル。噂の内容を知っているんだろう?教えてくれないか」
先程途中で聞くのをやめてしまったから、コルネル院長の言う噂がどのようなものなのか全ては知らない。
「話すのはいいが、そんなにいいものじゃないぞ」
「いい噂だなんてはじめから思っていない。教えてくれ」
「じゃあ言うけど……」
アルは微妙な顔をしながらも教えてくれた。
はじめからわかっていたけど、やっぱり私と殿下の婚姻について物申したいお方がいるようだ。平民と王族の最高位だし、何も言われない方が不気味なのだけど。
とにかく噂によると、精霊王という存在を殿下はコントロールできない。むしろ危険だ。精霊王という存在は暴走すると手が付けられなくなる。そんな危険なものと契約し、国に戻ってくるなど、王族の判断としていかがなものか。
レネッタについても信用ならない。殿下はあの女に騙されている。そしてそのことに気付いていない。条約も、精霊王でダルネミアを脅して無理矢理結ばせた。エルティナ様は人質の代わりに連れてきたのではないか。というものだ。
さらに違うパターンだと精霊王の主人が実は私で、殿下の精霊のふりをさせて殿下を脅している。殿下はそれに屈しているというものまで。
そして思った。馬鹿馬鹿しい、と。
私は殿下を騙してなんかいないし、そんな悪女っぽい技術と器量があったら今頃精霊使いとしてのスキルも駆使して、どこかの金持ち商人の妻にでもなっている。決して王族なんてめんどくさそうなものと関わりにはいかない。
精霊王は間違いなく殿下の使役する精霊で、殿下はちゃんと精霊王と付き合っているし、エルティナ様についてはユアリスへの態度を見れば、人質なんて立場でないのはわかる。
噂なのだから根も葉もない話なのはわかっている。無視したところで、私と殿下の婚姻が白紙に戻るなんてことはないだろう。
だからといってこの噂を放置するというのは、どうも許せない。別に白紙に戻る分には構わないのだ。ただ……
「私のことをどうこう言う分には構わない。実際、陰口を言われても仕方ないことをしていたのはわかっている」
6年以上男だと国を騙していたんだ。嘘付きだとか実はそっちの趣味だとか言われる覚悟はしている。
「殿下は影でコソコソ言われるようなことは何もしていない。こんなくだらない憶測で殿下を陥れようとしている人間を許せると思うか?」
こんなことを思うのはとてもおこがましいのだけど、私は殿下を助けて、今回は助けられた。そして殿下は、私を好いてくださっている。普通の関係ではない、私にとって特別な方なんだ。
これはさすがに口に出しては言えないけど、そう思っているのは事実で、だから許せない。
プロットや人物一覧の作成が中途半端なため、過去に1回名前だけ出した人物とかの名前がわからないことがよくあり、次回作を書くときはちゃんと作ろうと心に誓っています。
精霊院長の名前、インターネットで小説タイトルと共に検索かけて引っかからなかったので、初登場だと信じたいです……(・・;)




