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王太子と精霊王4

『ところで主人殿、愛し子はいつ来るのだ?』

条約に関する文書の文面を考えていた所に、精霊王がヌッと顔を出す。

そう。ダルネミアから戻ってきてかれこれ6日が過ぎたが、レネッタたちはまだアリュ戻ってきていなかった。彼女は意識を取り戻し、アリュに向かって出発したという連絡は受けている。もう数日もすれば到着するだろう。

精霊王にしてみれば、15日以上レネッタに会っていないわけだ。不満げなのも仕方ない。

『むう……愛し子が妾の行動範囲に入ったら妾は行くからの。主人殿はどうなさるつもりじゃ?』

彼女がアリュに戻ってくる大体の時刻は、その前日にはわかるだろう。かといってその時刻を空けられるとは思えない。むしろ、しばらくは予定が入りっぱなしで、業務以外の用事で王宮を出られる気がしないのだ。

しかし、精霊王だけ行かせるというのはいくらか不安がある。精霊王の存在も今回の出来事も、既に大陸中に知れ渡っている。正直、ほとぼりが冷めるまでは単独で精霊王に行動されて欲しくない。

『それでは妾はいつ愛し子に会うことができるのじゃ?主人殿は愛し子と近いのではないのか?』

ここで精霊王の言う「近い」という言葉に、どうも嫌な予感がした。

「……やってくださいましたね。王太子殿下」

そうノックもなしに入って来たのは、レネッタの上司、宰相のカーレルだった。その手には分厚い書類の束が握られている。

「あの場であのような発言をなさるとは、いくらお疲れとはいえあまりに軽率であると言う他にありませんな」

カーレルはつかつかと私の机に近付き、書類の束をわざとらしく音を立てて置いた。

「おかげさまで、ただでさえ忙しい状況でさらに別の作業が増えましたよ。彼女の弟たちの保護に加えて、彼女を養女にしたいから間を取り持ってほしいと言ってくる者への対応。彼女に対する詮索の妨害などなど……私のところは補佐官が不在なのですよ?」

それなのに余計にややこしくしたな、とその目が言っていた。

「その点については反省している。レネッタの弟たちの保護についてはこちらからも人手を出そう」

レネッタが弟と妹たちのことを大切にしていることは有名だ。姉が王太子妃となるかもしれないともなれば、何かしらの形で彼らが狙われることになるのは容易に想像できる。養子にしようとするならまだいいが、下手をすれば命を狙われる。

「そうしていただけると助かります」

カーレルはちらと私の机の上に広げられた書類を見る。

「おや、これは例の友好条約の内容ですか」

「ああそうだ。今回の条約は締結が約束されてはいるが、まだ話し合う必要がある」

さすがにあの数日でこの条約の内容を全て決めることはできない。今後両国間で詳細を話し合い、国王と皇帝との間で調印されるまでは仮のものだ。

「私は外交のことはよくわかりませんので、ウグム宰相にお任せしますよ」

そう言ってカーレルは興味無さげに書類から目を離す。

「さて、本題に入りましょうか、王太子殿下」

「レネッタのことか。そうだと思った」

わざわざ書類を届けるために宰相自身が来る必要はない。使用人にさせればいい話だ。

部屋にいた使用人に出て行くように合図を送る。

そして私と2人だけになると、カーレルは持参した書類の中から一枚の紙を取り出した。

「こちらにサインを。シャヴィム殿下」

その紙はレゲル改め、レネッタを解雇するための書類だった。


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