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王太子と精霊王2

その日は良く晴れていた。良い風も吹いていて、船は順調にダルネミアに向かって進んでいた。

しかし突然、これまで一切その気配もなかったのに風が強まり、海が荒れ始めたのだ。

当然だが、風が強くなり始めたあたりで私は船内に避難していた。

私が甲板にいても無意味だ。それはわかっていたのだが、どういうわけかあの時、私は甲板に出たのだ。

その時、嵐が少し収まり船の揺れも小さくなった。

一瞬強く風が吹き、海水が目に染みて目を閉じる。そして目を開けると、目の前に見たことのない精霊がいた。

『ふむ。面白い。そなたあの者と関わったようだの。案内してやろう。妾とて愛し子を諦めたくないのでの』

私はその時、状況を飲み込むことができていなかった。

明らかに精霊が自分に話しかけていたからだ。

普通精霊が自ら話しかけてくるということはない。レネッタのような特殊な人間については置いておいて、とにかく精霊は契約していない人間に対して声はかけてこないのだ。

「いったいなんなんだ?」

思わず口をついたのがそれだった。

『妾か?妾は精霊王じゃ』

精霊王?いや、話には聞いていたが、その時はどこか信じていないところがあったのだ。しかし、いざ目の前で見て直感した。

この精霊は明らかに他の精霊とは異なる、と。

だがこの精霊が精霊王だとしたら、なぜ私の前に姿を現したのか、それがわからなかった。それに、精霊王は今、ダルネミアにいるのではなかったのか。

『たしかにこの辺りには他の精霊王がおるぞ。だがあやつはもう尽きかけておる』

ということは、この精霊王はダルネミアにいるという個体とは別のものなのか。だが、だとしてもなぜ私に語りかけてきたんだ?それにこの嵐は、どこか妙だ。

『まあそなたは特別じゃぞ?そなたの精霊は盟約の精霊であるからしてな、そなた自身が精霊王の器に感化されておるが故、われら王からすると近づき易いのじゃ』

器とは、レネッタのことらしい。

どうやらこの精霊王は二度彼女に振られたようだ。そしてその美しい顔を歪めて進行方向、ダルネミアの方を見た。

それにしても、盟約の精霊という言葉が聞こえたが、いったい何のことなのだろう。

『そなた、過去に愛し子を助けるなりしたのであろう?そのためにそこの精霊と契約した。違うか?』

そうか、あの状況で契約した今の私の精霊のことを言っていたのか。そしてレネッタと関わったために、この精霊王は私に話しかけてきたということか。だとしても、その目的は何だ?私と話がしたいなんていう理由ではないはずだ。

『愛し子の元に向かっておるのだろう?案内してやろうと思うての。愛し子は妾にとって特別なのじゃ。尽きかけの精霊などに穢されては堪らぬ』

「……精霊は主人以外のために動かないのではなかったのか?」

『愛し子は特別なのじゃ。なに、案内程度であれば加護にすらならぬ。妾も急いでいるのだ。契約をしていない妾では、愛し子であっても直接守ることはできぬからの』

そうしたらこの精霊王は再び彼女と契約をしようとするのだろうか。しかし、書庫の裏側で読んだあの書によると、愛し子と精霊王が契約するというのは、避けるべき事象だ。レネッタのところに案内してくれるというのはありがたい話だが、そう易々と乗っていいものだろうか。

「精霊の王よ。あなたが器と呼ぶ彼女と契約したら、どうなる?」

『なぜそのようなことを訊く?そなたも精霊使いならば知っておろう』

「何も、起こらないのか?力が暴走すると聞いたが」

『暴走?確かに愛し子は特別じゃが、精霊王も精霊じゃ。主人に逆らうなどせぬ』

ならば、ハウリル書の内容は何なのだろうか。

あの中では精霊王と契約した愛し子という存在は周囲の人々を惨殺した。

『まあ、契約ができずとも、愛し子の近くにいられるのであれば妾はそれでよい』

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