帰還
……戻って、きてしまった。
こっちの言葉が耳に懐かしい。
ダルネミアにいる間はほとんどあっちの言葉しか聞いていなかったから、耳がダルネミアの言葉に慣れてきていたんだろうな。
そうそう行くことはないけど、ダルネミアの方に旅行に行くときは安心だ。
そう思うだけでいられればよかったのだけど、そんなことはなかった。
「さて、今回のダルネミアでの出来事について、何か補足することはあるか?」
一通りこれまで起こった事を、言えない部分は除いて話し終えた。事前にダルネミア側としていた打ち合わせの通り話したので、先に戻った王太子殿下の話と矛盾が生じることもないはずだ。
「いえ。詳細については改めて文面で報告させて頂きます」
これでこの尋問が終わればよかったのだが、さすがに流せる内容ではないよね。当然、シャヴィム王太子殿下の発言について追及された。
この尋問の場に、殿下はいらっしゃらない。
先程から私に質問しているのは……国王陛下である。
「シャヴィムから話は聞いている。返答次第だと言っていたが、どう考えている?レネッタ・ゲナルダ」
国王陛下から直に名前を呼ばれ、思わず背筋が伸びる。しかしどう考えていると言われても、考えられなかったというのが正解だ。
よって何も言えず、国王陛下に対し失礼とはわかりながらも黙ってしまった。
そんな私の様子を陛下は静かに見ている。何か言った方がいいのはわかっているが、言葉が出てこないのだ。
「まあ、あやつがそう発言したことで、もう決まったようなものだがな」
「え……き、決まったとは、どういうことですか!?」
一応、返事を待つということではなかったっけ。
「言葉の通りだ。多くの貴族が集まる会議でそう発言した。一度発した言葉をなかったことにはできん。王族の発言とは、そういうものだ」
陛下は立ち上がって私を見下ろす。
そうだ。自分でもよくわかっている。今回のダルネミアの件はもはや私だけの問題ではない。意味があるのだ。この婚姻の話には。
「この件について、会議の内容とは無関係とはいえ漏らした者がいる。それで市井に話が広まったというわけだ。もう今さら否定はできん。だが……一応聞いておこう。この婚姻、受けるか、受けないか。どうしても嫌だと言うのなら考えよう」
正直なところ、受けたくはない。殿下のことが嫌いだとかそういうことではなく、私に王太子妃、さらに王妃が務まるとは思えないからだ。令嬢の中には、そうなるかもしれないからと教育を叩き込まれている者もいる。王太子殿下にも、そういった許嫁がいてもおかしくないはずなのに。
でもこう考えたところで断る理由にはならないし、今の状況で断るというのは無理だ。どうしても嫌ならいいと陛下はおっしゃっているが、建前にすぎない。
「……お受けします」
そもそもこの状況で私に選択肢などない。
そんな私を見下ろしながら、陛下はふっと表情を緩める。
「息子の失言でこのような形となりすまない。しかし、あれが何かに特別執着するというのは初めてでな。なに、君は優秀な補佐官だった。自信を持てばよい」
陛下は私の肩にポンと手を置く。
そうして私の報告は終わった。
主人公が国に戻ってくるまでに100話近く使っていた事実に気が付きました




