島に届いた噂話2
思わず固まってしまった私の反応を見て、事実だと確信したらしいエルティナ様はずいっと顔を近づけてきた。
至近距離で見ると睫毛長いな、なんて違う方向に進んで現実逃避をしようとしたけれど、無理だ。
それにしてもどうして知っているのだろう。殿下からの手紙は燃やした。私以外読んでいないはずだし、察していたかもしれないけどゼイドがエルティナ様に話すとはとても思えない。
「いったいどこでそのようなことを聞いたのですか?」
一応ぼかして返してみる。そうだとも違うとも言っていない。
「街で噂になっていますわ。私はダルネミア人で、現地の人間ですから島民に詳細を尋ねられてむしろ困惑しています」
「私にそれを言われましても……」
実際に話を聞いたわけではない。どういう話がどうやって広まったのだろう。
「そうですわ、こんなものが配られていました」
エルティナ様が鞄から取り出したのは、一枚の紙切れだった。黄色がかっていて品質のよくない安物の紙だけど、何か文章がつらつらと書かれている。
『アリュの王太子殿下、精霊王を下した男装の補佐官レネッタに求婚』
そんなタイトルから始まったその文章は、なぜか今回の事の経緯が脚色しかされていない状態で書かれている。
いわく、卑怯な手を使われて誘拐された私は自力で誘拐犯達から逃げ、ダルネミア王家に保護される。そしてそのダルネミア王家の頼みで、激戦ののち悪い精霊王を討ち果たした。その精霊王が最後の足掻きで起こした噴火を私が被害を完全に抑えたとかいう、なんともすごい話が出来上がっていた。
精霊王は言うなれば寿命で消滅したのだし、そもそも私を誘拐したのはダルネミア王家である。一部嘘は言っていないみたいな感じで完璧なまでの美談が出来上がっている。
「これは……どういう……」
紙を持つ手が震える。精霊王については、こういう形で発表したのかという感じで驚きはない。問題は、王太子殿下の部分である。
「私も噂しか聞いていませんわ。ですが、どこもこの話題で持ちきりですの」
精霊王という存在が明るみに出たことはもちろん話題になっているが、ダルネミアの危機を救い、同時に一国の王太子がその中心的人物に求婚したなんて、メインの肉料理の上に魚料理が乗ったものにさらにデザートが乗った状態で出されたようなものだ。それが美味しいのかどうかはさておき、話題になるのは仕方ない。仕方ないけど……そもそもなんでデザート乗ってるの!?
「……こちらとしてもある程度事情は把握していますから、精霊王に関する事についてはむしろ予定通りですわ。ですがこの、婚約というのはいったいどういうことですの?」
エルティナ様が視線を逸らした私の両頬に手を置いて、ぐいっと正面を見させる。
その目は、この状態に驚いていると同時に、どこか面白そうに細められていた。
ラストスパートにさしかかり、本編がほとんど書き終わりましたので、最後まで続々投稿していきます!




