告白5
結局、サグアノの求婚に関してはうやむやなまま、船はダルネミアを出港した。
エルティナ様はこうなる事も想定して、アリュに行く準備までしてきていたようで、半ば無理矢理船に乗り込んで今は私の部屋で一方的に恋愛話をしていた。
「それにしてもレネッタさんはどなたとも結婚しませんの?周りにあれだけ素敵な殿方がいらっしゃいますのに。ついでにサグアノも」
素敵な殿方……ユアリスとアルのことだろうか。ついで呼ばわりされてるけどサグアノも。
確かにいい人たちであるとは思う。でも、付き合うとか結婚するとか、よくわからない。一人でもやっていける人はやっていけるし、わざわざ一緒になる意味はなんだろう。しかも私なんて人の力を借りなければ動けない体だ。一緒になって、誰が得をするのだろうか。
そう言うと、エルティナ様はすっと立ち上がって、突然私の両肩に手を置いた。そしてグッと掴まれる。
「レネッタさんの考えは間違ってはいないわ。でももし、結婚を諦める理由が脚にあるのでしたら、それだけは駄目です。絶対に」
そう言うエルティナ様の手は震えていた。
「私たちの、帝国の責任ですわ。許して欲しいとは言いません。でも、あなたのことを好いてくださる方はそれを含めてなお、あなたを必要としているんです。ユアリスだって、私よりもあなたを必要としていますの」
「……私が、必要なんですか?」
ユアリスこそ、ひとりでもやっていける人材だろう。
まあ、違うことを言わんとしているのはわかっているのだけれど、どうしても必ず自分である必要がない気がしてしまうのだ。
「レネッタさんにとっては、そうなのですよね。でも私にとって、ユアリスは必要なんですの。ユアリスは私がドラゴンに乗ることを馬鹿にしなかったわ。それが嬉しかったの。ダルネミアの殿方が全てそうというわけではないのですが、金持ち未亡人の道楽だと、影で噂をされていることを知っていました。悔しかったわ。私は男たちと変わらないくらい誇りを持ってドラゴンに接してきたのに、女だからってだけで馬鹿にされて」
エルティナ様の表情に影が差す。その時のことを思い出しているようだった。
「私は私自身を認めてほしかったの。前の夫が私の趣味を影で笑っていて、必要ないことと思われているのが丸わかりでしたわ。夫に必要だったのは皇帝の娘の夫という立場だけ。私自身については無視でしたもの」
愛のない結婚であっても、それが王族に産まれた者の義務である事は重々承知していたから、諦めて過ごしていたけれど、とエルティナ様は遠くを見つめて言った。
「また政略結婚をしても同じことの繰り返しですわ。私の歳でいいと言ってくださる殿方の目的なんてたかが知れていますもの。帝国として大きなメリットのある縁談もないのなら、自分の好きな殿方と結婚したい。この機を逃せば、もう次はありませんの。ですから、ユアリスが今はあなたのことを好いていても、私は諦めませんの。これは私自身のためですから」
「……すごいですね。エルティナ様は」
家族でもない誰かのことをここまで思えるものだろうか。
私はここまで誰かを必要だと思えるだろうか。そして、必要だと思ってもらえるのだろうか。
「あら、いずれ家族になるかもしれない人なのですから、それくらい思えて当然ですわ」
あっけらかんと言うエルティナ様は、とても自信に溢れていた。
もともと1話あたりの文量が少ないので、あまり話数を気にしていませんでしたが、これ250話みたいです。
300話まではいかない……はず。




