告白3
返事……この状況で考えられるのは一つしかない。
ダルネミアに連れて来られる前、あの襲撃の後の告白の返事だ。
なぜ今、公衆の面前で、しかもダルネミアの姫であるエルティナ様が2人を突っ突いているんだろう?さっぱりわからない。
混乱する私を、エルティナ様は何やら期待を込めた目で見つめてくる。これはどういうことなの?
でも、この返事はいずれしなければならないものだ。その機会をくださった、っという解釈でいいのだろうか。そうだとしたらなおさら不思議なのだけど。
まあいい機会だから、伝えないと。でもいざとなると、うまく言葉が浮かばない。
シャヴィム殿下からの手紙を読んで、そしてゼイドの告白を聞いて、2人のことを考えなかったわけではない。むしろ、結論は出ていた。
「ごめん。色々あって、考えた。でも、どうしても、2人は私の大切な友人で……」
2人を傷付けたくない。そう思うほどに台詞が出てこなくなってしまう。
「2人のことは好きだ。でも……」
恋愛感情を、抱くことはできない。単に今の関係が崩れることが怖いのかもしれないとも思ったけど、私の嘘がバレてしまったあの時から、とっくに崩れ始めている。関係が崩れることが怖いのではないなら、そういうことなのだ。
「ごめん」
そう絞り出すのが精一杯だった。
「いや、いいよ。返事が聞けたから。うん……」
アルは恥ずかしそうに顔を逸らして言う。ユアリスも静かに頷いた。
……これで、いい。
2人に対して恋愛感情を抱くことができないのは事実だ。ずっと男として接してきたのだ。無理だと、直感的にわかってしまう。同性のように思えてしまうから。
それにしても、エルティナ様はなぜこんなことをさせたのだろう。そもそもどうして2人の私に対する思いを知っているのだろう。
そう思ったら、エルティナ様と目があった。
エルティナ様は意味深な微笑みを浮かべ、すっとユアリスの方へ近寄る。
そして、手にしていた扇子をピシッと閉じて、ユアリスに向けた。
「ではユアリス。約束通り言わせていただくわ。あなた、私の夫になりませんこと?」
な、何?それ……
当事者たち以外はさっぱりわかっていないようで、半分が口をパクパク開け、もう半分は固まっている。サグアノも驚きで声が出ないという感じだ。当然だ。突然乗り込んできた帝国のお姫様が、優秀な竜騎士とはいえ他国の人間に突然求婚したのだから。
立場的に考えればユアリスが断るのは難しいだろう。アリュとしても、この降って湧いた縁談を見逃すはずがない。大国ダルネミアの姫君がアリュの人間の妻になるということは、ダルネミアが裏切らないという保証を得るようなものだ。
「夫に先立たれ早1年、その夫との生活は政略的な結婚故に少しも楽しくありませんでした。まあ、嫌いではありませんでしたが、それ以上でもそれ以下でもない関係でしたわ。この首飾りも、喪に服すときの慣例で、夫の遺品を身に付けそのままにしていただけのこと。2度目の婚姻くらい好いた殿方と一緒になってもよいでしょう?」
エルティナ様は周囲の反応など気にする様子もなく、首飾りを指先で弄る。
「それともユアリスは、見知らぬ男の手垢の付いた女は嫌かしら?」
「いえ、っとその……そういう問題ではなく……」
自分よりも背が低いはずのエルティナ様に、まるで見下ろされているように見えてしまう。
エルティナ様はそんなユアリスに詰め寄って、さらに続けた。
「安心なさって。お父様には話をしてありますわ。あなたの妻となったら、私はアリュでダルネミア大使となり、アリュとダルネミアの橋渡し役となりますの。ダルネミアに婿に来いとは言いませんわ。私が好きなのはドラゴンの乗り手としてのあなたです。アリュでのあなたの出世の邪魔はしません。そんなことは妻として失格ですもの」
驚いて何も言えない。お国柄なのだろうか。それともエルティナ様がこういう性格なのだろうか。おそらくはどっちも影響しているのだろうけど、とにかく押し方がすごい。
振られた瞬間の男に告白なんて普通できないというかしないのに、エルティナ様は堂々と、こんな人前でしてみせた。いっそ清々しい。
恋愛?パートですが、メインの糖度は低めです
メインよりサブの方が高そうか……な?




