告白
目が覚めた6日後の早朝、私はアリュに向かう船に乗るために港にいた。
シャヴィム殿下が手配してくださった船で、一見するとただの貿易船だけど、人夫に紛れて顔見知りの騎士が乗っていたりしたから、まあそういうことなんだろう。
レルチェをアリュに連れて帰る必要があるため、その準備のためにまだしばらくは離岸しない。
私はあまり目立たないようにするために船の一室にいるのだけど、座って窓の外を眺める以外特にすることはない。
ダルネミアも見納めかと思っていたらアルとユアリスが人に囲まれているのが見えた。
2人は噴火の後はほとんど噴火の被害からの復興の手伝いをして皇都で働いていたらしく、それで知り合ったらしい人と別れを惜しんでかなにやら挨拶を交わしているようだった。
そういえばネルやエーシャにお礼が言えてないな、なんて考えていたら、精霊が私に耳打ちしてきた。
『あの男が来ましたよ』
あの男と言われても……誰だろうと思いながら同時に聞こえてきたノックに返事をする。
「……もう、お会いすることは無いと思っていましたが」
入ってきたのはサグアノだった。昨日の夜、港に向かう前に皇帝をはじめとする王族の方々と挨拶を交わし、皇都を出たのだ。
ゼイドは一緒ではないようで、扉を閉められて二人きりになる。
「出発直前にすまない。すぐに済む」
「はぁ……」
いったい何をしに来たんだろうこのお方は。この港から皇都まではちょっと距離がある。わざわざ来たということは精霊王の話とかの追加事項か何かだろうか。
立ち上がるのは厳しいので、とりあえず向きだけはサグアノの方を向いた。
すると突然、サグアノはその場に跪いた。
「もう一度、君に婚約を申し込みたい。君が好きだ、レネッタ」
え、え?えっと……え?
私は座っているから自然とサグアノに見上げられる形になる。
こうしてると様になるな、さすが腐っても王族……なんて思っている場合じゃない。
言葉の意味は完全に理解している。ダルネミアの言葉だからわからないなんてことはない。なぜこうなったのかがわからないだけだ。
「そちらの言葉で言った方がいいか?」
そう問われたということに気付いたのは一呼吸ほど空いてからだ。私は慌てて首を横に振った。2回もあれを聞いたら、どうにかなりそうだ。
というかあり得な……いや、違う。私は言葉を飲み込んだ。こうして直接言われている。あり得ないからと、私の考えだけで切り捨ててはいけない。感情を、無視してはいけない。
ゼイドの告白を思い出す。彼のあの忠告は、この事を言っていたんだ。
「正直、戸惑っています」
慎重に言葉を選ぶ。
サグアノは私の言葉の続きを静かに待っていた。
「好きな人もいません。誰かと付き合ったこともありません。自分の気持ちがわかりません。立場的に本来ありえないと、気持ちと関係のない部分の方を考えてしまいます」
自分の気持ちはわからない。不快とか、そんな感じは一切ないし、サグアノのことは嫌いではないんだろう。
「……今すぐに返事が欲しいとは言わない。アリュに戻ってからでも構わない。手紙でも何でもいいから、返事が欲しい」
サグアノは真っ直ぐに私を見ていた。応えなければ失礼だろう。彼が王族だから云々ではなく、個人として応えなければならない。
少し時間が欲しい。そう言いかけた時、部屋の扉がノックされた。急いでいるのが伝わってくる。そんな叩き方だった。
しばらくは今のように2日おきの投稿です。




