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話し合いと再会2

皇帝たちは引き連れていた使用人の用意した椅子に座る。

そして、ネルとエーシャは全員分の飲み物を用意し終えると、その使用人たちと共に部屋を出ていった。

部屋には皇帝と第1皇子、サグアノ、エルティナ様が残る。

「さて、礼を言うのが遅くなり申し訳ない。今回のダルガ山の噴火に関して、帝国を代表し礼を言わせていただく。そなたのおかげで、皇都は壊滅的な被害を免れた。そなたの働きが無ければ、我々は皇都を諦め、多くの国民が路頭に迷っただろう。本当に感謝している」

皇帝はそう言って懐から綺麗に丸られた紙を取り出す。丸めていた紐を横にいた第1皇子が解くと、そこには達筆な文字でおそらく、今回のことに関するダルネミアからの感謝が書かれていた。

第1皇子が再び丸たそれを私に差し出す。受け取ると、彼は微笑んだ。

6人もいる兄弟の1番年長なだけあって、第1皇子はもう30を超えている。その微笑み方は落ち着いていた。

「……そして、精霊王の件について、脚について、我々はそなたに詫びねばなるまい。そなたは確かに精霊王の器であったが、そなた自身の意思を無視し、強制的に連れてきた挙句、愚息の企てにまで巻き込んでしまった。精霊王を恐れていたなど、今となっては言い訳にしかならん。そなたには迷惑をかけた。しかし許してほしい。我々には、そうするしかなかったのだ」

一国の王に頭を下げられる日が来るなんて思ってもいなかった。事態が事態だからもうなぜとは思わない。でも、つい変な勘繰りをしてしまう。

こうされては断れない性分だというのをわかってなのかな、なんて。

まあ、私も国と禍根は残したくはない。

けど脚についてはいくら金品を貰ったところで治るわけでもない。完全に許すことができるかといえばそれは無理だ。これから歩くたびに思い出すことになる。

しかしこれも含めて、私は許さなければならない。少なくとも表面上は。

「治療を望むのであれば、帝国で最も腕の良い医者を呼ぶ。可能な限り……」

「いりません。アリュの医官が手を尽くした上でこの状態なんですから。医官には今回の噴火の被害者の治療をさせてください」

つい、言ってしまった。サグアノとエルティナ様が恐る恐ると言った様子で皇帝の方を見る。第1皇子も、気にしていないようでいて、わずかに眉をひそめる。

「そなたがそう言うのなら、そうさせていただこう」

皇帝は特に気にした様子もなく、再び謝罪を述べながら頭を下げた。

そして話は終わったとばかりに、違う話題を切り出す。

「……今後のことについては、既にアリュの王太子と話し合いを行った。そしてその話し合いの結果、精霊王について公表することになった」

私は思わず目を見開く。あれだけ隠したがっていた精霊王のことを公開するということは、精霊王の存在が世間に知られると同時に、今回のダルネミアでの出来事の裏に精霊王がいたことを、そしてそれを隠していたということがわかってしまう。

「もちろん、ありのまま全てを話すわけではない。しかし、アリュのシャヴィム殿下が精霊王の主人になられた。王太子殿下の精霊だ。隠し通すなどできん」

確かにその通りだ。王太子殿下の精霊を隠し通すなんて無理だろう。

「仮に黙っていたとしても、いずれわかってしまう。そうなれば今回の件について精査されてしまうだろう。それならばこちらから明かしても良い点を明かす方がよい」

皇帝はじっと私を見た。その真意を理解して、私は黙って頷く。

要は事実を知る私に、黙っていろという事だ。

これまでダルネミアでは、精霊王の望むままに精霊使いを精霊王の、言い方は悪いが生贄にしてきた。その事実は、ダルネミアにとっては仕方のない事とはいえ、非難を浴びるのは確実だ。罪もない精霊使いが生きた人形のようにされてきたのだから。

「……彼女にも、ティスタにも申し訳ないことをした。精霊王が消滅し、自我などは正常になってきてはいるものの、精霊王の主人であった時とその前の記憶がないそうだ」

ティスタ……お姉さん。私と少し関わってしまったばかりに、こんな事になったんだ。

そう思うと、胃のあたりがスッと冷えていく感じがした。

「彼女の様子が落ち着くまでは我々が彼女の生活を保障する。詫びには足りぬかもしれぬが、何不自由ない生活を約束する」

そう言われれば、頷くしかないだろう。いくら精霊王と関わった記憶がないとはいえ、いつ思い出すかわからない。その状態でアリュで過ごすのは難しいだろう。ダルネミアでなら生活は保証される。

「……しかし、ティスタとはじめに話をした時、彼女はあなたの事は知らないと言った。あなたの反応であなたと彼女になんらかの接点があるのはわかりましたが、いったいあなたたちはどこで会ったんです?年齢を考えると、あなたがまだ子供の頃でしょう」

ここで、これまで黙っていた第1皇子が口を開いた。

「オスルから、聞いていないのですか」

そもそもの発端は、彼がお姉さんを殺そうとしたことだ。その時近くにいた私はまだ幼かったからなのか精霊との契約をしていなかったけど、私の精霊の愛し子とかいう性質のせいで、お姉さんは精霊使いになったんだろう。

お姉さんがそうして精霊使いになったから、オスルがお姉さんをダルネミアに渡したのではなかったっけ。

「いくらかは聞いているが……彼が言っていた少女というのがあなたであるとわかったのは、あなたが精霊使いとして名を挙げはじめた頃だ。もちろんティスタには尋ねたよ。あの場にいた少女は一体何者だったのか。しかし彼女は何も知らないと言った。あれは嘘ではないだろう。これは個人的な興味なのだが、あなたを見ているとまるで当時の彼女と親しかった人間のように思える。しかしティスタ自身は本心から知らないと言っている。これはどういう事なのかなと思ってね」

「……お姉さんが知らなくて当然ですよ。私とお姉さんは、たまたま会って何度か話をしただけなんですから。私も、お姉さんの名前すら知りませんでした」

お姉さんの名前がティスタだと知ったのは、最初にカラルドが彼女の名前を呼んだからだ。

そう言うと、第1皇子は不思議そうな顔をした。

「ならば尚更のこと、あなたと彼女は親しいとは言えないのだろう」

「そうですね。私にも、よくわかりません。ただ私がお姉さんの事を気にしていただけです。たまたま会って話しかけて、それだけです。あの時はいつもと違って、別れた後にお姉さんを追いかけました。私にとってお姉さんは、私の話を聞いてくれた人、それだけのはずなんですけどね」

多分、後悔だ。あの時にお姉さんについてなにか尋ねていれば、私ばかり話していなければよかったのかもしれない。私が一方的に親しいつもりでいただけ。

突然目が熱くなって、何も言えなくなる。

しばらく沈黙が続く。

「……彼女に、会うか?」

サグアノの一言に、私は半泣きになりながらただ頷いた。

ダルネミア第1王子の名前が出てくることはない……はず

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