手紙と従者の告白2
封を切って中の紙を取り出す。3枚のうち2枚目だけわずかに分厚い。でもまあ順番に読んでみよう。
まさか王太子殿下から直筆の手紙を受け取る日が来るとは思ってもいなかった、
『これを読んでいるということは無事に目が覚めたということだね。あなたのことは心配だが、先に帰国する。船の上で何かあっては対処が難しい。
あなたがアリュに戻ってきてからのことについては心配する必要はない。私とイグルドで父上に説明しておく。あなたの立場が悪くなるようにはしないから、安心してアリュに戻ってきてほしい。あなたの弟や妹についても、私が彼らの安全を保障する。
今回の噴火の後始末については、噴火がいくらか収まってからダルネミアの皇帝と話をした。あなたの活躍がなければ、被害はより甚大なものになっていただろう。アリュとしても、このことについてはダルネミアに恩を売る結果となった。
これを機会にアリュはダルネミアとの間に友好条約を結ぶ運びとなった。停戦協定や商工条約以外の条約をダルネミアと結んだ国は他に無く、アリュとダルネミアの結びつきは今後より強いものになるだろう。あなたには感謝しなければならない』
確かに、戦争をやめたとはいえダルネミアとの間に大陸は強い結びつきを持たない。物理的に距離があることもあるが、未だ大陸の国々はダルネミアを警戒しているのだ。アリュがダルネミアと友好条約を結ぶとなれば、アリュの大陸での立場は大きくなる。ダルネミアとの外交の窓口としてもはたらくことができる。
これはアリュどころか大陸でも大ごとになりそうだ。まあ、条約まで漕ぎ着けたのは殿下の働きだし、私はあくまできっかけに過ぎない。私がこれ以上アリュで目立つのは避けたいし、殿下もその辺りは配慮してくださるはずだ。
『次の頁に記した内容は、困るようであれば焼却してしまっても構わない』
ざっと読み進めて、そこで1枚目の手紙は終わっていた。
……殿下は何を書いたんだろう。読まれて困るとしたら精霊王に関することだろうか。
首を傾げつつ1枚目を裏に回して2枚目を読む。
文字の多かった1枚目に比べ空白の目立つ簡素な文章だ。しかし……
「は?」
思わず声が出た。
『私、シャヴィム・ルーア・アリュはあなたに結婚を申し込む』
ご丁寧にもこの2枚目だけは王族が正式な書面で使う紙で、背景に王家の家紋がうっすら刻印されている。1番下には流れるように書かれた殿下の署名と、王太子の身分を示す印まで捺印されていた。
こんなものを見てしまったら思わず声くらい出る。
ネルとエーシャが不思議そうにこっちを見ているが、正直それを気にしている場合ではない。
それより……なんで?
功績だけ考えれば、脚色のしようによっては十分かもしれない。血筋が云々言われるなら、どこかの貴族の庶子くらいの話をでっち上げるくらいできるだろう。実際、私の父親について全く知らないのだから。
そう。現実的にこれは可能なことなのだ。この申し出を冗談だと笑い飛ばすことができない。
燃やしても構わないということは、あくまで私の意思を尊重するということなんだろう。
それはそうだ。普通に考えて、王族からの申し出を断るなんてあり得ない。むしろ選択の余地を与えてくれているんだ。
まあ足とかを理由に断ることは可能だ。反対する貴族も多いだろうし、アリュ内で混乱を生むだけな気もする。
……続きを読むことができない。読めば読むほど、わからなくなってしまう気がした。かと言って燃やすことは躊躇われる。
手に持った紙をどうすることもできずただ眺める。手紙のはずなのに、白紙みたいだ。
どれくらいそうしていたのか。
突然のノックの音で我に帰った。
ネルがノックの主を確認した。どういうわけかゼイドが訪ねてきているらしい。
なぜかはわからないけど、一度違うことを考える方がいいかもしれない。
そう思って私はゼイドを通した。




