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噴火

大きく地面が揺れる。凄まじい音は風精霊による咄嗟の守りを貫いて衝撃になった。

レルチェが苦しげに呻いて、翼をバタつかせる。

くらくらする頭をなんとか動かして山肌を見下ろすと、土煙を上げながら大きな岩がゴロゴロ転がっていくのが見えた。そして、赤く光る溶岩がゆっくりと流れてきた。

あれを、止めるのか……

今の私の力では足りない。先程の戦いで精霊たちもかなり消耗している。

そうだ、王城だけじゃなく皇都に住む人々に避難を促さなくていいだろうか。ああ、でも私が伝えなくても、こんなところに住んでいるくらいだから避難しようとしているだろう。

皇都の様子は火山灰のせいで見えない。最後に見たときはあちこち明るくなっていたけど、どうなのだろうか。

……少なくとも今はできることをして止めないと。

土精霊に土を動かさせて壁を作り、氷精霊に凍らさせて強度を増す。傾斜に沿って壁を湖の方に続けようとして、察した。私一人の力では到底無理だ。

これまでの戦いと先程精霊王の攻撃を受けた影響で、精霊使いとしての私の力もかなり弱くなっている。

ダルネミアに連れてこられたときに船で無茶をしたあの時の感じと同じだ。

精霊王の愛し子だかなんだか知らないけど、私はあくまで使役することのできる精霊が多いだけで、精霊王のような強大な力を使うことができるわけではないのだ。

山にぽつんと建っていた小屋が一瞬にして炎を上げて溶岩に飲み込まれる。

動きは土石流などに比べればゆっくりだけど、確実に皇都に向かって進んでいる。

これ、土石流よりまずいんじゃないだろうか。

土石流は確かに危険だし皇都を壊滅させるだろう。でも完全になくなってしまうということにはならない。土砂は取り除ける。溶岩は、今はドロドロに溶けているけど、冷えて固まればもう飲み込まれたものは戻らない。なにより、未知数なのだ。溶岩なんて見るのも初めてだし、どう対処するのかもわからない。私の作った壁がどこまで機能するのか、もはや機能しないのか、予想が全くできないのだ。

そして、ゆっくり進む溶岩に触れた壁は卵の殻のようにあっけなく割れて、何事もなかったかのように溶岩は進んでいく。

逃げれば生き延びることはできるだろう。でも、全てを失ったらどう生きればいいというのだろうか。生きていればやり直せるとは言うものの、失われたものは戻ってこない。そういうことが言えるのは努力と運で成功できた者か、当事者でない第三者だ。

この状態は、命を守ろうとする必要はない。逃げるのは彼ら自身でできること。私が守りたかったのは財産という生きる手段だ。

命が1番大切だとしたら財産はその次、あるいはそれ以下。それすら守れないのか。私は。

……頭が痛い。

精霊王の言った負荷というものが一体なんなのか、正直なところよくわからない。なぜ精霊は人に手を貸すのだろう。私はこうして無茶をして、精霊たちは苦しんでいる。それでもなお私を助けようとしている。私と、人間と関わらなければこうはならないのに。

そもそもこの噴火は精霊王が起こしたものだ。人と精霊は関わるべきじゃなかったのではないだろうか。

もう溶岩を遮るものは何もない。いや、遮れるものなんてない。

下から吹き上がってきた風は熱く、妙な匂いがした。

レルチェが呻き、上昇する。

溶岩は焦らすようにゆっくりと眼下を流れていった。


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