火山噴火前5
詳細をサグアノに説明する。
なんでも上から見てみたところ、火山が噴火すると皇都に土砂や溶岩がなだれ込むような地形にしか見えないらしい。正直皇都周辺の地形についてはよく知らないが、素人目に見てわかるということは、相当なのだろう。
「なぜ、このような場所に皇都を?」
火山の噴火については特に気を配っているであろう帝国の最も主要な場所がなぜ、このような危険に晒された場所に作られているのか。そもそもどうして、火山の近くなどという場所を選んでいるのだろうか。
「……精霊王です。帝国の全ては、精霊王によってもたらされた。その精霊王は地を司る。精霊が己の属性のそばを好むのはご存知でしょう。精霊王は火山の近くを好みました。それが、ここです」
確かに、精霊は自らの属性のものを好む。火精霊は火の近く、水精霊は水辺を好み、氷精霊は雪を好む。よく知られたことだ。
「それにもし噴火が起こっても、我々には精霊王がいました。実際、噴火が起こっても、精霊王により被害は最小限に抑えられていました。表面上は土精霊使いがやっているように見せながら、精霊王に土砂を止めさせ、そもそもの噴火を抑えさせた」
だから誰も不満を言わなかった。多少の噴火の被害はあれど、大きな被害とならないから。
サグアノは頷いて続ける。
「火山の近くというのは、噴火の危険がありますが、同時に鉱物などの資源や温泉など、恩恵も多い。皇都はむしろ、活動が活発な火山の近くでもある程度安全だったために栄えることに成功したのです。帝国の繁栄の全ては精霊王によるもの。それが今はこの状況です。皇都に住む者たちには城の者が逃げるよう呼びかけているはずですが、これまでの状態に甘えている者もいる。全員逃げてはいない上に、逃げたとしても戻る場所がないかもしれない」
今まで大事にならなかったことからくる甘え。これまでしてきたことが、仇になった。
「精霊王は消え、我々に恩恵を与えてきた火山の脅威にさらされている……その上、カラルド兄上の様子も妙です」
レネッタを助けた時に彼女を殺そうとしていたあの男か。状況が状況だった上にあまりに早口なこちらの言葉だったせいで正直聞き取れていなかったが、明らかに様子がおかしいというのはわかっていた。
「カラルド王子はなぜあのように?」
「……僕にはわかりません。兄上に恨まれていたということすら、気付いていませんでした。ましてや恨まれる理由など、わかりません」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、サグアノは眼下の皇都を見下ろす。
「結局、帝国もかつて大陸にあったエディスのようになるのでしょうか。精霊王という力に頼った代償でしょうか」
「どうだろうね。ダルネミア帝国の繁栄は確かに精霊王によってもたらされたものかもしれないが、精霊使いが犠牲になっているだろう。今もそうだ」
レネッタもその被害者だ。それなのに彼女はダルネミアを恨むどころか助けようとしている。火山の噴火の対応などした事もないはずなのに。
「彼女を犠牲にはさせない。サグアノ殿下もそうでしょう。王子であるあなたにしかできないことがある」
サグアノはしばらく黙っていたが、やがて真っ直ぐ今にも噴火しそうに形を歪ませたダルガ山を見据えた。
火山など見ない私にもわかるほどだ。彼の目にはどう映っているのだろう。
「じき、噴火します」
そうサグアノが口にした瞬間、赤い光が山の山頂を走った。




