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火山噴火前

レネッタを掴んで高く舞い上がったレルチェは、迷いなく船の方へ向かっていく。

そして、今までで一番大きな揺れが起こった。

兵士たちの治療にあたっていたゼイドとかいうダルネミアの王子の従者がハッと顔を上げる。

そして、兵士たちの1人が何やら叫んだ。

それに続くようにして兵士たちの表情は不安や恐怖に染まっていく。

早口でよく聞き取れないが、とにかく兵士たちの間に混乱が広がり、収集がつかなくなっているのがわかった。

「シャヴィム王太子殿下、ここは危険です。精霊王の力ならば海からの脱出が可能でしょうから、逃げてください」

ダルネミアの王子、サグアノが海を指差し言う。

他国の王太子が自国の災害に巻き込まれて死んだら、重大な国際問題となる。そうなれば両国の間に大きな禍根を残し、災害からの復興に対する支援などもないだろう。さらに、この噴火で滅茶苦茶になったダルネミアに攻め入る国の支援に回られる可能性がもある。

この状況で私に死なれては困るのだろう。

まあ私とてこんなところで死にたくはない。死ねばアリュだけでなくダルネミアにも多大な迷惑をかける。

「あなたは大丈夫なのか?」

「ええ。僕はこの場を収めなければなりません。それに僕の王位継承権は第5位。この災害で何かあったところで王家としてそこまで問題にはなりませんよ」

そう言ってサグアノは自嘲気味に薄く笑う。諦めたような、寂しげな笑い方だった。

そしてその顔の裏で、私に何が言いたいのかわかった。早く去らなければ迷惑だ、とその目は語っていた。

ダルネミアの王子である彼の前で私の身に何かあればのちのち責められるのは彼だ。そして他国の王太子などという立場の私がいては、この場では邪魔でしかない。

逃げるだけの力があるのだからどこかに逃げるべきなのだ。

そもそも、レネッタを救うという目的は果たしたのだから、とどまる理由もない。その時だった。

「殿下、なぜこのような場所にいらっしゃるのですか!?」

驚いたような声にそちを向くと、2人の男がいた。見覚えがある。確か、カーレル殿の補佐官候補の……片方は怪我でもしたのか、ぐったりとその肩に体を預けている。

「私のことはいい。それより君たちはイグルドと先にダルネミアにきていたのか」

そう問うと男、ユアリスと言ったか……は頷いて真剣な眼差しで私を見た。

「僕の見間違えでなければ、彼女のドラゴンのレルチェがいたはずです。まさか殿下が……」

「そうだ。レルチェにレネッタを船に連れて行かせた」

「では、レネッタさんは無事なのですね」

ユアリスは心底ホッとしたように言った。

「まあ、そうだな。それにしてもその彼はどうした……いや、今は話している場合ではないな。とにかくこの場を離れるぞ。この場には我々がいるべきではない」

ぐったりとしている彼については心配だが、王太子という立場の私がこの場で何かあっては問題になる。

「これまでどこにいた?姿を見なかった気がするが」

どこか隠れられるような場所でもあったのだろうか。それならばそこに一旦身を置くのがいいかと思ったが……

「彼が……アルが負傷して、レネッタさんが僕たちを守るために氷の壁を張ったのです。やっと溶かすことができこうして出てきました」

言われてみれば、氷があったように思う。レネッタが作ったのだろうとは思っていたが、中に人がいたのか。

「そういう事か。隠れるのに良い場所があるのかと思ったが、どこかの岩陰にでも隠れるしかなさそうだ」

こうしている間も時折地面は揺れ、ダルガ山の山頂からは黒い煙が上がっている。

彼女は大丈夫だろうか、そう思ってレルチェの飛んで行った方を見ると、遠くで突然レルチェの動きが不安定になっているのが見えて、なぜかこちらの方へ戻ってきた。

そして真っ直ぐに火山の方へ向かっていく。

「彼女は何をしているんだ?あのドラゴンは船に向かったはずだろう」

同じくそれに気づいたサグアノが慌てた様子で尋ねてきたが、答えられるはずもなかった。


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