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逃走と闘争4

殺す……?お姉さんを……?

カラルドの言葉が頭の中をグルグル回る。また、お姉さんが殺される?

「ティスタは十二分に役目を果たした。あなたという器を引き寄せ、精霊王の主人にもなった。これ以上、彼女に求めるものなどない」

いつの間にか私のすぐ前にカラルドが立っていた。薄く笑いながら、私の肩に手を落とす。

「次はあなただ。素晴らしい精霊使いのあなたにしかできないことだ。前任者がいつまでもいては、相応しい人材を登用できないからね。精霊王もそれを望んでいる」

カラルドがそう言った時、お姉さんの肩のあたりを漂う、透明な影が見えた。それはおぼろげに輪郭をとりはじめ、ついに人型をとなった。

あれは、精霊だ。

『やっとだ。この時をどれだけ待ちわびたか』

掠れた声が頭の中に直接響いてくる。

精霊が主人以外と話をすることはないし、向こうから話しかけてくるなんて、普通ありえない。あれが、精霊王……

『さあ、我と契約するために、この者を殺せ』

精霊王の顔がすぐ目の前にあった。しかし、輪郭が霞のように途切れ、その表情をはっきりと見て取ることはできない。

2日目に私に話しかけてきた精霊王は、輪郭はっきりした精霊だった。

弱ってきているからなのか、それとも主人が私でないからなのか。

『そなたが我が主人となれば、我の力も戻るであろう。さあ、我との契約のために、殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ』

「ひっ……」

霞の中に狂気的な鈍色の光が2つ、見えた。

思わず引きつった悲鳴を上げた私は、その場に尻餅をついてずるずると後退する。

「どうして動かんのだ!殺せ!殺した者には望むだけの褒賞と地位を与えるぞ!」

私のその様子を見ながら、カラルドはお姉さんの方を見向きもせずそう命じた。

精霊王の顕現にどよめいていた兵士たちは、カラルドの言葉にハッと我に返ったように動き出す。

……させない。お姉さんを二度も死なせない!

殺させない。私のせいで、お姉さんが。でも私には何もできないから……

私は精霊たちをお姉さんのところに向かわせた。先程までの戦いでかなり消耗してはいるが、周囲の兵士程度なら止められる。

数名の兵士がお姉さんの喉元を狙って槍を振るう。

お姉さんはぼんやり立ち尽くし、動く気配がない。

お姉さんを中心に、火精霊が熱波を放つ。

水が沸騰するような温度の熱風は、兵士たちの間をすり抜けていく。熱風に直接触れる体の方はしばらく平気だろう。しかし、彼らが身につけている鎧はどうだろうか。剣の持ち手の金属はどうなるだろうか。

案の定、兵士の一人が剣をとり落す。それを皮切りに、兵士たちは叫び声を上げ、鎧を脱ぎ始める。しかし、鎧はそう簡単に脱げるものではない。

「なんだよこれ!鎧が、こんなの着てられるかよっ!」

「お、俺の背中、背中どうなってんだよ……」

火傷した皮膚が鎧に張り付き、剥がそうとしてべろりと皮膚とともに剥がれたのを見た。

絶叫が浜辺に響く。

さすがのカラルドも兵士たちの方を振り向き、目を見開く。

その時だった。淡い金色の光がその男を覆い、真皮が剥き出しになっていた背中に集まる。

光が消えた時には、男の背中は赤みがあるものの、火傷が消えていた。

「兄上!何をなさっておられるのです!?」

……サグアノの声だ。

「違う、やったのはこいつだ!俺はっ……忌々しい!精霊使いなど、消えろ!」

カラルドは叫び、敵意を剥き出しに私を睨む。

「やったのはこいつ」霧がかかったように判然としない頭の中で、妙にはっきりとその言葉が響く。

視界がはっきりしてきて、カラルドの背後にある光景が、絵画のように鮮やかに見えた。

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