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逃走と闘争

イグルドは朝早くに船を探しにいくと言って出て行った。残された私はアルとユアリスに私が拐われた後の王宮の様子を聞いていた。

逃げる準備といっても、荷物はないので特にすることはない。

昼寝をして目を覚まし、ボロボロになった木が剥き出しの天井をなんとなく眺めていた。

その時だった、慌てた様子で精霊が飛び込んできて、どこかを指したその瞬間、凄まじい轟音と共に、小屋の壁が一瞬で消し飛んだ。

その熱気を頬に感じた刹那、赤い炎が小屋の周りを囲うように広がっていく。

攻撃が来た方を見ると、少し離れた場所に武装した集団が見え、真っ直ぐこちらに向かって来ていた。

「帝国の兵士?」

正直、あれがただの帝国兵なら足止めできる。しかしあの威力の攻撃ができるのは私の火精霊くらい高位な精霊だ。あの中に相当な腕の精霊使いがいるのか、それとも……

「ここで戦うのはまずい。関係のない人たちを巻き込む!」

比較的人家が少ないとはいえ、一つの集落みたいな感じだから人はいる。この小屋をあっさりと消し飛ばす威力の攻撃をこうもあっさりしてくるほどだ。ここでさらに私の精霊たちが戦えば、この辺りは滅茶苦茶になってしまう。

「確かあっちが海岸だったよな?背負ってくから乗れ!」

「ありがとう。助かる、アル」

私の足ではろくに進むことができない。アルに背負われ、歩かない代わりに私は精霊たちに指示を出す。

小屋を覆う炎の一部を消し、まだ混乱した様子のユアリスを立ち上がらせる。

私を直接攻撃する気はないのだろう。小屋を襲った人影は私たちを追ってくるのみだ。

とはいえ、アルは私を背負っているため、どうしても速度が遅くなり徐々にその間は狭まってきた。

足止めにと精霊たちを動かすが、白く輝く炎に払われてしまう。

「……桁違いだ。精霊王」

帝国兵の中に、白い布で顔を覆った人物が混じっているのを見た。明らかに兵士とは違う風貌のあの人物が、精霊王の主人なのだろう。

「やはり、あの人物が今の精霊王の主人ですか」

横を走るユアリスの確かめるような声音に、私は頷く。

「私の精霊の攻撃をあんな力技でねじ伏せられたのは初めてだ……このままでは逃げ切れない」

そう。このままでは海岸に着くまでに追いつかれてしまう。

……一か八か。思い付きでこんな荒技したくないけど仕方ない。

目の前に大きな水溜りができる。それは一瞬で白く凍りつき、止まることのできなかったユアリスは尻餅をついた。

私を背負ったアルも同じように尻餅をつく。私は風精霊が支えてくれたのでさして衝撃は無かったが、冷たい。

「何するんだよ……って、まさか」

驚いているのか、それか風精霊がアルの方は最低限で手を抜いたのかは知らないが、尻をさすりながらアルは顔をひきつらせる。

「たぶんその想像は正解。下手に動くと吹っ飛ぶから、そのままで」

そうして私たちの体はズルズルと動き出す。そしてすぐに動きは速くなる。

「ちょ、これ速すぎ……」

男2人の何とも言い難い悲鳴が聞こえてきた。

しかし、割とすぐにそれはアルのものだけになる。

ユアリスの方はさすがは花形の竜騎士、急加速等には慣れているのか、なにかを悟ったような表情で固まっていた。

水精霊に撒かせた水を、即座に氷精霊に凍らしてもらう。そして風精霊に背中を風で押させ、氷の道の上を滑るという、なんとも原始的な荒技である。

精霊の力を無茶苦茶消費する上、結構集中しなければならないので正直この後のことは不安でしかない。

でも、あんなに人のいるところで戦いになるよりマシである。

砂浜が見えてきた。速度を落とし、砂浜に着地する。

「すっげぇ……」

後ろを振り返ったアルが言った。私たちが通ってきたところが凍りつき、夕陽を浴びて輝いて見える。

海の方を見ると、ポツポツと島が点在しているのが見えるが、そう近くはない。船などについては、遠くの方に針先でつついたくらい小さく見える程度だ。

ここなら、多少派手にやっても被害はあまり出さずに済みそうだ。ほとんど海と砂浜だし。

「海岸には来たが、これからどうするんだ?戦うっても、あの精霊相手に勝てるのか?」

「……わからない。やれるだけのことはする。でも二人とも、危なかったら逃げてくれて構わない。巻き込みたくない」

精霊王との戦いでなにが起こるのかわからない。いざとなれば契約を持ちかけるが、それもそれでどうなるのか、話の通り暴走するのかもしれないし、そうならないかもしれない。

できれば逃げたかったのだけど、精霊王に見つかってしまっていては打つ手はなかった。

「勝手な頼みだけど、精霊王と契約してもし暴走しそうだったら私をどんな事をしてでも止めて欲しい」

なんなら殺されても構わない。私のせいで暴走して全て壊してしまうくらいなら、死ぬ方がいい。アルとユアリスも危険なのだから。

「でもお前、暴走はしないんだろ?大丈夫だ。俺たちもいるし」

「ええ。僕らも出来る限りのことをします。レネッタさんは、自分のことだけを考えてください」

……この2人なら、こう言ってくれるんじゃないかと思った。だからこそ私を殺してくれなんて頼むべきでないともわかっていた。

でも、今はとにかく私にしかできないことをしよう。逃げられないのなら、足掻くしかない。

私たちが来た方を見ると、黒い影に見える兵士たちがが私の作った氷の道を辿ってやって来ていた。


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