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隠れ家4

その瞬間、精霊が気色ばんだ。

イグルドはその気配を感じたのか、再びカチリと音を立て剣から手を離す。

「俺が何かする前に、昨日みたいにお前の精霊に止められるのは目に見えてる。さすがに今のは逆に殺されるかと思った」

やれやれと言いながらも笑うイグルドは両手を頭の後ろに回し、真っ直ぐ私を見た。

「俺の他に、アリュで精霊王について知ってるやつらは、お前と精霊王との契約に間に合うならその前にお前を殺すよう言われている。というか、この誘拐以前から、待ち人であるお前を生かしておくか否かの話はあった。お前は危ういからな。案の定誘拐されたし」

「それは、確かに私の落ち度です」

「お前の実力なら、普通はそう易々と誘拐できるはずがない。それだけ精霊がいれば、大抵のことは何とかなる。だからこそお前、他人の力を信用してないだろ。それで嫌なんだろ?自分のせいで少しでも身内に何か起こることが。自分の力に責任を感じてるんだろ?」

値踏みするようにイグルドは私を見てくる。返答を間違えれば、次は本気で殺されるんじゃないか。そう思った。

「……それはそうですよ。誰だってそうでしょう?」

私は精霊使いとしてかなり恵まれていると知っている。力を持つ者が弱者に施しを、とまでは言い過ぎだが、誰かを助けられる。自分は恵まれていてその力を持つからこそ、その力のせいで他人を傷つけるようなことになる事は絶対に避けたかった。

私が力を持っているばかりに弟たちや知り合いに危害が及ぶなら、その危害が加えられないよう、私が動くしかないじゃないか。

これは、力を持つ者の責任だ。自分は人より恵まれているのだから、人に迷惑をかけてはいけない。

「私の力のせいで誰かが苦しむなら、その苦しみは私が耐えるべきものなんです。それに、この力があれば救える人もいる。恵まれているのだから、その分人を助けたいと思っているだけです」

「恵まれてるか、確かにそうだ。お前は恵まれてる。助けたいという考えは悪くない。そこまで思うなら、今回のことの収束のため、死のうとは思わないか」

イグルドは相変わらずの読めない表情で私に詰め寄る。この距離なら精霊たちの反応よりも、イグルドの動きの方が速いかもしれない。

「……私、死にたくはないですよ。何回か死にかけたことありますし、もうあんな目に遭うのは嫌です。痛いのだって嫌いです」

私が死ねば、精霊王は私と契約できず、エディス帝国が滅んだ時のようにはならないだろう。私が死んだ時に精霊王がどういう反応を示すのかまではわからないが、私が契約してしまえばおそらくダルネミアは滅ぶ。そういうことだ。

「でも、昔話が全て事実だなんて限りません。もしかしたら狂言かもしれないじゃないですか。私が死んだところで、精霊王が怒るだけかもしれないですし」

「確かにあんな古い物が全て正しいとまでは思っていない。だが精霊王の待ち人の描写はほとんどお前と一致しているし、状況も似ている」

「……だから、私は死ぬより他ないと?」

「俺達の意見はそうだな。だがな、俺たちはお前を守ろうとしていた。こうなっちまったら仕方ないが」

イグルドの目は据わっていた。

状況はわかっている。普通に考えれば、私が死ぬ方がいい。でもそれは考えであって、私の意思ではない。

「もう、全力で逃げるしかなさそうですね。死にたくなかったら」

半ば諦め気味にそう言ったとき、イグルドが笑ったような気がした。

「そうだな。逃げればいいんじゃないか?」

顔を上げると、イグルドはやっとかとでも言いたげな表情をしていた。


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