謁見
昨晩は色々ありすぎてよく寝れていない。
あの後、サグアノは結局何も言わずゼイドを連れて出て行き、私は部屋に残された。いったいイグルドは何を言ったのだろう。私の知らない事だろうか。
半開きの目を擦り、身体を起こす。
皇帝との謁見についてはどうなるのだろうと思っていたら、何人かの侍女を連れたゼイドが入ってきて、何やら指示を出して出て行った。
そして無言の侍女たちに服を着せられた。
袖口や胸元が大きく開いた服で、痩せぎすの私が着ると、むしろ貧相に見える気がする。同じことを再び部屋に入ってきたサグアノとゼイドも思ったようで、なんとも言えない顔で私の方を見てきた。
「前にも言ったが、君はもう少し太った方がいいと思うぞ」
「同感です」
ゼイドまで……
体質なんですからどうしようもないじゃないですか。
「違う服にしましょう。大陸風の服があったはずです。持って来させます」
そう言われ着せられたのは、確かにどこか大陸っぽい、露出控えめの服だ。こっちの方がドレスっぽいから心なしか動きやすい。
サグアノとゼイドも、まあいいかみたいな事を言い合っている。
まあいいか、っていうのが少し気になるけど、事実だし気にしてはいけない。
私の着替えや化粧を終わらせた侍女たちが道具を片付け出て行くのを確認して、私はサグアノの方を見た。
「で、こんな格好をさせられるということは、今日の皇帝陛下との謁見はあるんですね」
「予定に変更はない。それより……なぜ逃げなかった?昨日来たあのイグルドという男に、なぜ助けを求めなかった?君の力があれば、船の上の時のように逃げられたはず。アリュからの使者が来たということは、君を助ける者たちが来たということなんだぞ?」
サグアノの言う通り、あの時イグルドに助けを求めれば今のこの状況を外交問題にし、私がアリュに帰る正当な理由を得られたはずだった。
「目覚め悪いじゃないですか。私が帰ったらダルネミアで火山が噴火した、なんて」
そう言うと、サグアノとゼイドが互いに顔を見合わせなんとも言えない表情を見せる。
「……前にも言いましたけど、確かに精霊王についてはわからないことだらけです。でも死ぬわけじゃありませんし、もしかしたら私の精霊たちみたいに抑えられるかもしれません。やる価値があると思ったから残ったんです」
なおも2人は無言だ。どうも様子がおかしい。
「どうして昨日イグルドを通したんですか?あれだけ騙すつもりでいたじゃないですか。一体、彼は何を言ったんです?」
じっとサグアノの目を見つめる。
もはや睨むといっても過言ではないくらいになって、サグアノはようやく口を開いた。
「昔話、だ」




