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王子の葛藤

再びサグアノ視点

「昔話?」

それがなんだというのだろう。と言いたげにレネッタは僕を見た。

「あまり関係ないことだ。君が気にすることはない」

やや納得のいっていない様子の彼女を控えの部屋に移動させ、僕は一度外に出た。

「言えるわけがない。言ってしまえば、彼女の決意は、これまでの苦労はどうなる……」

イグルドが諳んじてみせた昔話。かつて大陸を支配していたエディスという帝国の終焉の話。精霊王の暴走により滅んだというその話は、自分たちの置かれた状況と似ていた。

まるで手元に持って読んでいるかのようにすらすら語ったあの様子から、イグルドは彼の知る昔話をそのまま話したのだろう。そうでなければあれほど流暢に話せまい。

しかし、それは所詮昔話なのだ。エディスの王子ハウリルの名を騙りエディスの崩壊理由をそれらしく記した偽書かもしれないし、精霊王全てが暴走するという確証もない。そしてイグルドのあの様子が演技である可能性もないわけではない。

僕はどうするべきなのかわからなくなったのだ。

精霊王についてはわからないことの方が多い。待ち人とやらがレネッタであるとして、彼女を殺せば精霊王は怒り狂うだろう。今の精霊王の主人を殺そうとする行為も、精霊王がどう出るかわからない。

……いや、手がないわけではない。待ち人を前にした精霊王は信じがたいことに、主人を殺すよう言ったという。そこで今の主人を殺し、契約するその前にレネッタを殺せばいい。そうすれば精霊王は主人を完全に失う。

これが今の最善の手なのだろう。レネッタが精霊王と契約しこれまでのようになったところで、結局ダルネミアは精霊王に怯えなければならない。可能ならば精霊王など存続しない方がいい。レネッタには死んでもらう方がいいのだ。

その考えに至るのに、そう時間はかからなかった。しかしその考えは、浮かんだそばから消し去りたかった。

理由は単純だ。レネッタに、死んでほしくなかったのだ。彼女を殺したくなかったのだ。

だから彼女の判断に委ねようとした。彼女が逃げたなら、皇帝にこの昔話の一部を話し、僕が全責任をもって今の精霊王の主人を殺すつもりだった。精霊王とはいえ本質は精霊だ。主人を失えば衰えるだろう。レネッタを殺させたくないから、絶対に失敗などしない。

もし失敗しても、賢明な父上は昔話から、僕と同じ考えに至り精霊王を終わらせるだろう。そうなるとレネッタは殺されるだろうが、身勝手な話、その時僕はいないだろう。僕の前で死ななければ、それでいい。

むしろ同じ時に死ねるならいいのかもしれない、とゼイドに言ったら、引かれたな。さすがに思い入れが過ぎるだろうか。

結局、レネッタは逃げなかった。

だから彼女に全て託す。

『もしかしたら意識を乗っ取られる事なく終わるかもしれませんし』

彼女はそう言ってのけた。

精霊王の主人になった者を見てきた僕にとって、その発言は信じがたいもので、普段であればそんなことが出来るはずがないと一蹴しただろう。

しかしどういうわけか、その時は彼女ならもしや、と思ったのだ。

彼女に、賭けたくなった。

もし精霊王を御することができたなら、私は彼女に対し少しでも殺すという考えを抱いた事を謝罪し、彼女に正式な婚姻を申し込む。振り向かれなければ、彼女をアリュに返す手助けをする。彼女の生活を奪った罪滅ぼしに、僕に出来ることであれば全てをするつもりでいる。

僕は頬を叩く。

「……よし」

彼女を信じる。それが僕に許された唯一の行為だ。




結構長期にわたり更新が途絶えていましたが、なんだか最後まで書き切れそうなので、頑張ります( *`ω´)

まだ余裕で20話以上かかりますが

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