離宮のパーティー2
案内された庭には何人もの貴族が集まっていた。
この前のガーデンパーティーで会った貴族や令嬢も何人かいる。
当然のようにこちらに気付いた貴族が集まってくる。
関わりたくないが、私も気付いてしまった以上、向こうに行かなければならない。無視するのはまずいから。
「お久しぶりです」
私は軽く会釈して集まってきた貴族と令嬢に挨拶した。
アルは私と同じように会釈をして、若干ひきつった笑みを浮かべながら私と貴族のやり取りを眺めている。
それとなく縁組みとかの話題をかわしつつ、適当に会話を進める。
人がだんだん集まってきてあちこちに話の輪ができている。
ちらりと殿下が見えたが、話に捕まっているようで動けていない。
ちなみにこのパーティーの主催者は王太子殿下だ。だからここにはロイヤルな方々がたくさん来ているらしい。
王太子殿下にクラヴィッテ殿下、王妃様、姫様、その他にも王の親戚、ほとんど勢揃いしている。
王様はお仕事があるようで欠席だ。
他にも神殿関係者や精霊院、騎士団のお偉いさんも招かれてかなり盛大なパーティーになるようだった。
「皆様、本日はここ、アルぺの離宮の改装記念パーティーにご参加いただき、誠にありがとうございます」
よく通る声で司会っぽいおじさんが挨拶をした。
会話で溢れかえっていたパーティー会場が静になり、ぼそぼそと囁く声しかしない。
「高名な楽隊も呼び、料理も揃っておりますゆえ、皆様心ゆくまでパーティーをお楽しみください」
司会のおじさんがそこで口を閉じ、おじさんの横にいた王太子殿下が口を開いた。
「では、アルぺの離宮の改装終了を祝し、皆で杯を揚げよう。皆、グラスを持て」
王太子殿下の声にあわせて、メイドや使用人がまだグラスを持っていない招待客に盆に乗せた酒やジュースを渡した。私とアルも飲み物を受け取ってメイドに礼を言う。
王太子殿下は全ての招待客にグラスが行き渡ったのを確認すると、杯を上げた。
「乾杯」
王太子殿下に合わせ、私達も杯を上げる。
皆が杯を下げ、一口飲むと再びあちこちで会話が始まった。
パーティーが始まると、あるところに小さな人だかりを見つけた。
私は早く話を切り上げて人だかりの方へ向かった。
何があるのか気になったからだ。
それとなく人だかりを抜けると、そこにいたのは一人の美しいご令嬢だった。
周りの人だかりは会話をしつつ彼女を横目で見るためにできたものなのかもしれない。
おそらく彼女が殿下の思い人、フェターシャ嬢だろう。
軽く波打った銀髪に、人形のように整った顔立ちは小顔で、少し垂れた碧の瞳は思わず守ってあげたくなるように儚げな光を宿している。
「美しいご令嬢だな」
「ああ、凄い」
アルはフェターシャ嬢に見とれながら気のない返事で答えた。
「殿下が惚れるのも無理ないか」
「でもよ、なんで誰も彼女のとこに行かないんだ?そろそろダンスだろ」
確かにフェターシャ嬢のところには彼女の女友達と家族らしい者しかいない。
「高嶺の華すぎるんだろ。いくらきれいでも度を過ぎるというか……あまりに凄いと手を出しづらいんだろ」
「まあな、俺なら見るだけで十分満足さ。でもよ、殿下はどうする気なんだ?」
「どっかに誘い出すか……それともダンスの申し込みをするか、聞いてないから知らない」
私はちらりと殿下の方を見た。フェターシャ嬢を見て若干固まってる。王太子殿下も同じように見とれて固まっていて、進展は無さそうだ。
距離的には殿下とフェターシャ嬢の距離の方がけっこう近い。
少しくらい手を出すべきだろうか。
フェターシャ嬢は薄緑色のドレスに、綺麗に結い上げられた銀髪にレースのリボンといった出で立ちだ。
私は風精霊に命じてフェターシャ嬢のリボンを飛ばさせた。バレないようにその周辺の人の飛びそうな物も飛ばす。
幸い今日は風がそこそこ吹いていて、リボン程度なら飛んでもおかしくない。
殿下は若干状況が飲み込めなさそうにしていたが、さっと手を伸ばしてリボンを受け止めた。
なんとかなったようだ。
後は殿下の勇気に任せよう。十分過ぎるくらいのセッティングをしたんだから殿下には頑張っていただきたい。
王太子殿下の方を見ると、とんでもなく羨ましそうな目で弟の方を見ている。なんでこっちに飛んでこないんだと言いたげな表情だ。
私が飛ばしたことは気付かれていないようで安心した。
殿下は突然リボンが飛んでいったことに呆然としているフェターシャ嬢にリボンを差し出した。
フェターシャ嬢はそれを嬉しそうに受け取り、ここからは声は聞こえないが、どうやら礼を言ったようだった。
憧れの女の子の笑顔に殿下は少し惚けているようだ。固まっていては意味がありませんよ。
やがて殿下は意を決したように口を開いた。
フェターシャ嬢は笑顔でうなずき、差し出された殿下の手を取った。




