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精霊王の災害

そこからは第八章に続いていた。

「まさかこれが、これが真実だというのか?」

力を失いかけた精霊王が精霊使いを求め、求める主人が見つかり、契約した時に精霊王があの嵐を起こした。

「だが、お前はいくらか信じているのではないか?この精霊王の待ち人に心当たりがあるだろう」

第七章を読み終えた僕に父上は問いかけた。

「……はい。彼女、レネッタに助けられた時に僕は精霊と契約しました。偶然ではなく、彼女を助けるために」

雪山で死にかけていた『精霊王の待ち人』が助かった理由と同じだった。

その経験があるだけに、この書が嘘を語っていないとわかる。

「それに、彼女は実家に帰った際に同じ事を起こしています。誘拐された子供を救おうとした際、危ない状態にあったためか誘拐された子供の一部が精霊使いとなりました」

その事は知らなかった。確かに誘拐事件を防いだという話は聞いていたが……そうか、話題性のある事件だったのに当時さほど盛り上がらなかったのは、精霊王のことがあったから、か。

「その精霊王の待ち人であるなら、彼女はどうなるのです?」

「……エディス王国は大陸で指折りの大国でした。それをたった数日のうちに滅亡に追いやったその大災害が、ダルネミアで起こるという事です。精霊王と彼女が出会えば、そうなるでしょう」

淡々と、しかし確固たる意志をもった口調でデュードは言った。

「殿下はダルネミアが数日で崩壊した場合、どうなるとお思いですか?」

あれほどの大帝国が数日で滅びるなど、考えた事もない。しかし、可能性として挙げるとするなら……

「もし、ダルネミアが崩壊すれば、その影響はいずれ大陸に及ぶ。これまでダルネミアが抑えていた国々が大陸に侵攻してくる可能性は大いにあるだろう」

大陸ではもう何年も大きな戦争は起こっていない。軍隊などは存在するが、大陸のどの国もその規模は縮小傾向にあり、最近まで戦争をしていた国に攻め込まれればひとたまりもない。

一方、ダルネミアで戦争が終わったのは三代前の皇帝の時代であり、戦争を望む者がいて、さらにそれを実行できる兵力がある。

加えてダルネミアに支配され日の浅い国は未だに帝国に対し不満を抱えている。ダルネミアを侵攻してから、その矛先が大陸に向くかもしれない。

しかも数日のうちにときた。

仮に戦争が起こらなくとも、これまで海の向こうの国々との間に築いたもの全てが崩れ落ちる。アリュの、いや、大陸中の経済は大混乱に陥るだろう。

戦争による特需が起こることも考えられるが、ダルネミアとの国交がなくなることにより生じる不利益を考えると、どちらがいいとも取れない。

しかも、過去の大災害の記録はエディスでのもののみ。実際の規模がどのようなものなのか、大災害の余波が大陸に及ばないという保証もなかった。

「おわかりになりましたか?精霊王の待ち人であるレネッタが精霊王と契約することで起こる悲劇を。なぜ我々が彼女を殺そうとしたのかも」

彼女が精霊王と契約すれば何かしらの大災害が起こる。しかし、契約がなされなければ、大災害は免れる。

レネッタを殺せば大災害は起こらない。

「ああ、理由はわかった。だが、それほどのことならば尚更、宰相や大臣、その道の権威の意見を仰ぐのが正当だろう。これはここだけの話で済まされる内容ではない」

「……でしたら、王太子殿下には口を閉ざしていただく他ありません。ここにお一人で呼ばれたことの意味を知った上で、この場にいらっしゃったのでしょう?」

不穏な音がすると同時に、首筋に冷たいものが当てられる。

息子に刃が突き付けられたというのに、父上は眉をひそめるのみで、制止の声を上げることはなかった。

それほどこの事を隠したいという事か。

「ダルネミアはエディスと同じ末路を辿る。もう間に合わぬ。お前が精霊王の待ち人、レネッタをなぜそうも助けたいのかは問わぬが、とにかくこれについてこれ以上追求するのを止めよ。お前がすべき事は今回のことの収束と、今後の対策だ」

確かにその通りだ。父上の言う通り、ダルネミアにいるという精霊王とレネッタが接触するのは時間の問題だろう。レネッタを攫ったということは、この書の内容をダルネミア側は知らないのだ。だからかつてのエディスのように、精霊王を恐れ言いなりとなっているのだろう。

災害が予想できるのなら、取るべき対応を先にとっておくことができる。

「ですが、それならばなぜイグルドはダルネミアに向かったのです?」

間に合わない可能性が高く、もし災害に巻き込まれれば死ぬかもしれないというのに、なぜ……

「間に合うならば、レネッタを殺すためだ。ここまで隠し通すほどだ、精霊王がダルネミア帝国の皇族により隠されている事は明確。彼女が精霊王と接触する前に、彼女を殺すよう皇族に働きかけるのがイグルドの役目だ。第7章の最後を読んだだろう」

最後、待ち人を殺すという選択肢だ。

どうやら、僕がここ数日で調べた事は全て彼らがすでに知っていた事だったらしい。馬鹿馬鹿しさで、少し笑ってしまった。

オスルの到着を待つまでもなかったな。

「この役はイグルド自ら買って出たものです。あれほど彼女を消す事に反対していたやつが、どうせなら自分が、と名乗り出ました。彼女を殺すと言ったやつの目は本気でした。もしかすると、皇族に大災害の事を言わず、自分の手で殺すでしょう」

「なぜそこまで彼は……」

自ら死地に赴くような事をなぜするのだろうか。それも、他人に殺されるなら自分が殺す、とまで思うのはなぜだ。

「知らぬ。私が尋ねても答えない。まさか隠し子かと尋ねた事もあったが、違うと言った」

そこだけは父上も不思議そうにしていた。確かに、自分の子供でもなければそこまでしないだろう。よっぽどの馬鹿なのか、死にたがりなのか。

……だが、僕も彼を笑えないな。

「それならば、僕も行きます。彼一人よりも、僕もいた方が話を聞いて貰いやすいでしょう。もちろん他の者には言いません。僕一人でダルネミアに行きます」

そう言うと、さすがの父上も驚いた顔で僕を見て、刃を突き付けていた男も思わずといった様子で手を引いていた。

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