精霊王の待ち人
精霊王の力は弱まっていった。その頃から精霊王は自ら精霊使いを求め、周囲に迫った。
『精霊使いを連れて来い。さもなくば嵐を起こす。あらゆるものを壊し、全てが終わったら主人と共に死に、邪となる』
そんな事を精霊王に操られたその主人は言った。
精霊王は誰を求めているのか。我らはそれを『精霊王の待ち人』と呼んだ。
我らは王国内、属国、大陸中の優秀な精霊使いを王宮の一角に集め、精霊王に見せた。
しかし、違うと精霊王は言った。
大陸一の精霊使いでも、四体もの精霊を従える精霊使いでも、隣国の精霊使いの集団の長でさえも違う、と精霊王は言う。
我らは再び、それには劣るものの精霊使いを集めた。しかし違うと精霊王は怒った。
怒った精霊王はその場にいた精霊使いを皆殺しにした。
我は目を閉じ、その凄惨な光景から目を逸らした。
目を開けた時、そこに唯一立っている男がいた。
そして、男は精霊王の主人となっていた。
精霊王の元の主人ウティーナは精霊王による虐殺を止めるためだろう。護衛の兵士に殺されていた。
主人の死か、それとも精霊王が男を主人としたのか、虐殺は終わった。
誰もが、精霊王が満足したと思った。しかし、違った。男から何かを感じていたようだが、やはり違うと言う。
思えば、この時点で僅かでも気付き、警戒しておくべきだったのだろう。
これほど激しく求める主人と邂逅した時、精霊王がどうなるのか。ただ精霊王が満足するだけで済むと、なぜ思ったのだろう。
怒りに任せた精霊王の虐殺の渦になんとかしてかつての主人ウティーナを巻き込めば、あの悲劇は回避され、ただ一体の邪精霊を生み出すのみで済んだというのに。
新たな主人、サウザーンに精霊王は問いかけた。かつて出会った精霊使いはいないか、と。
サウザーンは答えた。
数年前に雪山に登った時に遭難した。そしてその時、同じように遭難して倒れている男を見た。その時、これまで一度も契約できなかった精霊が契約を結ぼうと彼に言った。
その精霊は倒れている男を心配するように、そしてその男を助けるためのように、彼と契約した。
火の精霊という、男を助けるためのような精霊と契約した彼は、精霊の力を借りて男を助けた。
その男についてさらに尋ねると、属国のカーヴの端に住む男だが、病に倒れて今回の召集を免れていたという。
それを聞いた弟のカイザをカーヴに向かわせると、十日後にその男を連れて戻ってきた。
この時、男を連れてくるのではなく精霊王と主人が弟と共にカーヴに向かっていれば、運命はかなり変わっただろう。今更後悔しても遅いのだが、とにかくその時は王の存在を表に出さないというくだらない思いに囚われ、そうしなかった。
連れてきた男を見た精霊王は、すでに意識を奪った主人の口で、その主人を殺すよう命じた。
精霊がその主人を殺そうとするその様子に、思わず背筋が凍り付いた。ありえない事を見ていた。主人を殺そうとする精霊がいるのだと、我はその時知った。
そしてその事を、その意識のない主人はもうわかっていない。ただただ哀れだった。
主人をなくした精霊王はその男、ダガールと契約を結んだ。
その場にいた者は皆、国王を含め歓喜した。
ようやく精霊王の恐怖から解放された、誰もがそう思った。
しかし、最も恐ろしい恐怖は、ここから始まった。
力を取り戻した精霊王が放った風の一波は、東の宮を崩壊させた。
怒った精霊王の虐殺が生温く思えるような風だった。
しかし、その風が我を助けた。
入り口近くにいた我はその風で外に出され、王宮の崩壊から免れた。
それからのことは、よく覚えていない。いや、忘れたかったから忘れたという言い方が正しい。
とにかく逃げた。最も速い馬に乗っても間に合わない速さで、嵐は王宮を中心に広がった。
混乱する王都の人々の間を抜け、とにかく走った。
精霊王の脅しに屈し、早いうちにウティーナを殺さなかったことを後悔した。あるいは、ダガールを殺してしまえばよかったのだ。
精霊王の力は弱まっていた。本気で暴れたところで、王宮が壊れる程度に被害を抑えることもできたはずなのだ。
後にこれを読む者へ警告する
精霊王が待ち人を求めた時、いかなる被害が予想されようと、直ちに王の主人を殺せ。
それを躊躇うならば、待ち人を殺せ。
待ち人の死が王の死を招く可能性を、我らは試さなかった。




