口裏合わせ5
繋ぐ部分が書けたので、この先数話分はあります
カラルドが扉を閉じたのを確認すると、ゼイドはやれやれと肩を落とす。
「で、この状況について説明をお願いします」
そう言うと、ゼイドは私方に向き直り、口を開いた。
「確かに、出航以前はあなたが誰の妻として扱われるかは明確に決まってはいませんでした。しかしどうやら我々がダルネミアを離れている間に、カラルド殿下に決まっていたのです。それを知ったのは戻ったばかりの日でした」
まあダルネミアからアリュまで片道で10日以上かかる。アリュで多少の滞在もあっただろうし、30日くらいはダルネミアを離れていたのだろう。それだけあればこんな変化があってもおかしくはない。不思議なのはなカラルドに決まったのか、だ。
「カラルド殿下は今、非常に微妙な立場におられます。これまでは帝国の皇子として好きに過ごされていたのですが、現在のダルネミア帝国はいつにない危機に晒されています。6人もいる皇子全てを皇子として扱うのは余裕がなくなってきているのです。その中で最も廃嫡に近い皇子が、第6皇子ゾアン殿下、サグアノ殿下、そしてカラルド殿下なのです。ゾアン殿下はまだ幼いため、貴族の養子となる話が進んでいますが、カラルド殿下はダルネミアではその、かなりの女好きとして有名でして、これまでのダルネミアでしたら皇子としての立場がなくなるまでには至りませんが、今は話が違うのです。カラルド殿下は廃嫡され、今の立場を失う事を恐れているのでしょう」
「だから私と婚姻して、皇籍に残りたいということですか」
「はい。皇帝陛下も可能ならば自分の息子達を廃嫡などしたくないのでしょう。だからカラルド殿下を残すためにあなたを妻にさせようとした。カラルド殿下もそのためにあなたと婚姻しようとなさっている。サグアノ殿下は、側室の子で元々役職もあり廃嫡されてもさほど困りませんから、あなたを妻としなくても問題ないと判断されたのでしょう」
ゼイドの話を聞く限り、サグアノかカラルドかという問題が生じているのは単なる皇帝の息子可愛さゆえか。人の上に立つ人間としてそのやり方はどうなんだと思うけど、気持ちは分からなくもない。
でも、当事者としてはそんなことで決めるなとも思う。一婚約候補としてみれば、ますますサグアノの方がマシだ。
「精霊王と契約してもあなたという存在がいなくなるということはありません。むしろあなたがいる限りその夫という立場はこの帝国では重要となる」
「話の感じだとゼイドとしては、私にサグアノの方を選んでほしいと?どうして?カラルド殿下のことを考えるならそうは思わないのでは」
私にサグアノを選ばせるのは皇帝の意に沿わないことだろう。それに精霊王の主人としての私は確かに重要なのだろうしその夫が皇籍に残るのはおかしなことではない。しかし意識があるかないかわからないのだから、私の意思尊重とか気にする必要はないだろう。
「そうです。あなたにはサグアノ殿下を選んでほしい。あの方は確かに廃嫡され例えお一人になられても生きていける方ですが、だからといってカラルド殿下を残す理由になるとは思いません。皇帝陛下はカラルド殿下が妻を持てば今の女遊びもなくなると考えていらっしゃるようですが、それはないでしょう。今でも変わりません。先がどうなるかわからないあなたを、カラルド殿下がずっと愛すと思いますか?」
ゼイドって、こんなに話す人間だったっけ?でも、これだけはわかった。ゼイドはサグアノの方が好きというか、サグアノ派なのだろう。まあ実際部下みたいだし。
「では明日、私が皇帝陛下にサグアノの方がいいと伝えればいいんですね?」
そう言うと、ゼイドは強張っていた表情をいくらか緩ませた。
ああ、この人も苦労人だな……
そう思ったからそう言ったとは言わず、頷いておいた。
「ありがとうございます。このような事に巻き込んだ上、精霊王と契約していただくなど……」
「前にも言ったと思いますが、弟達のためと、私の興味ですよ」
「……ならばなおのこと、アリュに戻ってきなさい」
扉が開き、一人の男が部屋に入ってきた。
「イグルド……?どういうことですか!?」
そこに立っていたのは来ているというイグルドだった。今日のところは出会うことはないんじゃなかったっけ?
わけがわからずとりあえずゼイドを見ると、彼もまた驚いて目を見開いていた。
「僕が許可した」
後から入ってきたサグアノがそう言ってイグルドを睨んだ。




