口裏合わせ2
「あまりにもベタ過ぎません?それ」
しばらくの沈黙の後にようやく言葉を発することができた。
なんの冗談だろう。これ。
「それに殿下って、どなたですか?」
皇族の誰かだろうけど……皇位継承権のない傍流の誰かかじゃないの?殿下呼びするような相手って、ダルネミアはいったい何を考えてるんだ?
ゼイドは少し悩みながら答えた。
「サグアノ殿下です。何も知らない相手よりはよいのでは?」
「いえ、そういう意味ではなく……というかあの人ですか……」
確かにそれなりの地位にいた人間ではある。でもそもそも私は貴族ですらないし、容姿だって地味だ。それが大帝国ダルネミアの、第何位かはよく覚えてないけど直系の皇子と婚姻とかありえないし、私からすれば誘拐犯なんですが?
まあ、私の想像する王族っぽさはないけど、それでもおかしくない?いくらなんでもおかしくないか?
「確認ですが、サグアノが私を見つけるんですか?海岸でわざわざ?」
「はい、そういう事になっています。ですが別段おかしくはありませんよ?アリュの方にそういう習慣がないだけで、ダルネミアでは海で泳ぐのは普通のことですよ。皇族も、泳げなければ島国では生きていけませんから。それにサグアノ殿下所有の島の浜辺に打ち上げられたことになっていますので、殿下が直接発見してもおかしくはない状況です」
その通りだけど、殿下所有の島ってなんだ。個人が島を所有してるってどういう状態なんだろうか。さすが島国。文化が違うらしい。
へぇ、ともはや偶然見つけられたというところについてはもう考えない事にした。
「多少嘘らしい方が逆に信じられるでしょう。それに嵐があったことは事実ですし、あなただからこそあの嵐に遭っても精霊の力で生き延びていてもおかしくありません」
「そうですね。水精霊や風精霊の力を借りれば、その辺りの海岸に漂着できますから……でも、ちょっと待ってください。海岸で拾われたまではいいですけど、それがどうして婚姻まで飛ぶんです?」
端折りすぎでしょう。色々と。
しかも数日の間のことだろう。その間にいったい何があった?
話が飛躍しすぎてもはや何かの話を読んでるような、自分の事ではないように感じてしまう。
「……まず、海岸に打ち上げられたあなたを、殿下はアリュで誘拐された補佐官のレゲル(レネッタ)であることを知らず保護します。そしてしばらく混乱していたあなたに殿下が一目惚れし、アリュの補佐官である事を知っても殿下の方から告白。そして色々あって付き合う事になった。という事になっています」
……この脚本考えたの誰だろう。私はその人に頑張ったね賞みたいな賞を贈りたい……と思ったら、話してるゼイドもなんだか微妙な顔をしていたので、それ以上触れないでおいた。
まあ皇位と付き合うなら嫌でも結婚前提ってなるから、そういう意味で婚姻って話になると、そういうことか。
「ですがこの話についてはしばらく混乱がある可能性があります」
「……そうでしょうね」
そうとしか言えない。いくらなんでも急すぎるし、なんか色々すっ飛ばしすぎでしょう。
「あ、いえ、確かにそれもありますがそういうことではなく……」
何か他にもあるのだろうか。話を聞こうとしたらいきなり扉がノックされ、返事をする前に開けられた。
どうせサグアノだろうと思ったけど、彼は今イグルドと話してるんじゃなかったっけ?
誰だろうと扉の方を見ると、そこにいたのは知らない男。でも、どこかで見たことがある。どこだっけ?
「カラルド殿下、なぜこちらに?」
驚いたようにゼイドは言う。どうやらこれくらいのダルネミアの言葉くらいなら聞き取れるようになったらしい。
それにしても殿下、という事は皇族か。だから見覚えがあったのか。サグアノとどこか似ている。彼をいくらか軟派にしたらこうなるだろう。
「ああゼイド、いたのか」
軟派なサグアノ、もといカラルド殿下はゼイドのその質問に答える事なく、私の方へ近付いてきた。
「やあ。レネッタさん。こんにちは。やはり大陸の女性は肌が白く美しい。まるで熟れたラクァの実を剥いたようだよ」
……は?
何このお方?それにこれは聞き間違いかな、と思いたかったけど、彼が喋ったのはどう考えてもサヴァ語。しかも流暢。そして気障ったらしい。
「あの、失礼ですがどのようなご用事ですか?」
「俺は婚約者の顔を見に来ただけだ。ゼイドから聞いていないのかい?」
私は思わずゼイドを見た。ゼイドはカラルド殿下から見えていないからか、頭を抱えていた。
……えーっと、話が違いますが?
200話に突入しました!
途中であらすじや番外編もあるので、実質は200話ではありませんが……
色々と誤字、誤植等あるかもしれませんが、今後とも生暖かい目で見守っていただければ幸いです。




