口裏合わせ
精霊王の出現で、のんびり風呂に浸かる気が無くなったので、サグアノの屋敷の端にある客室に移動して、先程の精霊王について考えていた。
アリュのベッドとは少し違う、カゴの上にシーツを敷いたようなベッドに座っていたら、精霊たちが近付いてきた。
『主人!この建物に以前主人を攫ったあの者がいました』
え?以前私を攫ったあの者……?いったい誰のことを言っているのだろう。
今現在攫われているところだけど……まあ言い方的にサグアノではないのはわかる。でも誰だ?
精霊達も顔は覚えていても、名前は覚えていないため、あれこれと何か言い合っている。
『そうです!我らを捕らえて、主人を攫ったあの者です。冗談で攫ったとかぬかしたあの者です』
精霊を捕まえて、冗談で攫った者……まさか、イグルド?
闘技会でなんだかよくわからないけど、精霊を捕まえて眠らしてきたあのイグルドか。カーレル様の幼馴染だったっけ。反王国組織のゲーテが実は違うとかなんとか言っていた……
私の誘拐に関する用事だとしたら、まあ、決して不思議ではない。カーレル様が関わってるだろうし、彼は騎士団の人間だから特におかしくもなかったんだろう。
不思議なのはなぜすぐここに彼が来たのかだ。私が乗っていた船が嵐で遅れたというのもあるかもしれないが、それでもいきなり私のいるサグアノの屋敷に来るなんて、できすぎな気がする。私の居所を知っていたとしか思えない。
まあもしかしたらサグアノがダルネミアで警邏のような事をしているのかもしれない。それでイグルドが来たなら不思議ではない。
でも、サグアノはどう説明するつもりだろうか。
サグアノは私を皇族に入れるとも言っていた。どういう経緯で入れるつもりなんだろう。一応相手は皇族だから、それなりの手順とかがあると思うんだけど。
……部屋の鍵はかけられているが、その気になれば簡単に破壊できる。イグルドに会うこともできるだろう。
別に、精霊に何か伝言を頼もうかとも思ったが、彼は確か精霊使いではなかったはず。近くにアリュの精霊使いがいればいいが、そこまではわからないしそもそも味方ではないかもしれないというリスクもある。
それに私はイグルドを完全に信頼しているわけではない。
カーレル様の幼馴染であることが事実でも、だからといって信用できるかといえばそうではないから。
どうするべきか考えていたら、部屋の扉がノックされた。
そしてそれと同時に、私の精霊達が僅かに顔を歪める。
ゼイドが私の精霊を抑えるために壁を張ったらしい。思うように動けなくなった精霊が忌々しげに扉の向こうに目をやったところで扉が開き、案の定ゼイドが入ってきた。
「失礼します。おわかりだと思いますが、壁を張らせて頂きました。理由は……」
「イグルドが来ているのですよね?サグアノがいないということは、イグルドと何か話しているんですか?」
なんか今、普通にサグアノを呼び捨てたけど……まあいいか。ゼイドはそれどころではないって顔してて気づいてなさそうだし。
「ええ、やはりご存知のでしたか。今現在はあなたがまだ見つかっていないということにしていますが、いずれ見つかっていたが黙っていたという事にします」
ということは、ダルネミアは私の存在を一時的にとはいえ隠した事を認めるという事か。それをする意味はなんだろう。
「その間はまさか、婚姻がどうとかいう話ですか?」
ちょうどその事を考えていたから、なんとなく思い当たった。この間に何か作り話ででっち上げるつもりなのだろう。
「はい、その通りです。あなたは貿易船を装った船で運ばれていましたが嵐で難破し、海岸にいたところを殿下に助けられた、という筋書きです」
……なんだそれ。
私の顔はきっと、とても微妙な感じだったんだろうなと、ゼイドの反応でわかった。
なんだかんだで、次でついに200話です(1話あたりの文字数が少ないのもありますが…)
何かしたかったのですが、次は普通に話の更新になります(´ω`)
もし何か要望がありましたらメッセージ等でお寄せ下さい




