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帝国の話4

再び船に乗ってから二日目の夕方、船がダルネミア皇都の港に到着した。

貿易船であるため、違法な密輸品などが紛れていないかの検査や国外の犯罪者が紛れていないかの検査を受ける必要があった。

もしかして私はそれでハネられるんじゃないかと若干期待したけれど、サグアノという身元の確認も何もないやんごとなきお方の横に立ってたら何も言われなかった。むしろ恭しげな態度で接された。

下手に樽の中に隠すより堂々とある方が案外気付かない。ゼイドの言った通りだ。

それにしても……

「やっぱり皇子なんですね」

検査官が離れていったところで、私は小声で言った。

「どういう意味だ」

「いえ、そうなんだなと改めて思っただけですよ」

私の知っている「王子様」の定義が狭すぎたのか、あまり王子様っぽくないサグアノが帝国の皇子である事が未だに信じられていなかっただけだ。

まあでも、いいかげん事実だと認めた方がいいようなので、認めることにした。

「……そんなに皇族らしくなかったか」

「ええ、それなりに」

どこか野生的な容姿とかはじめの方の軽すぎる態度とか、色々あったもので。

そう伝えると、サグアノはしばらくどこか遠くを見て、小さくため息をついた。

「確かに皇帝の座に就くつもりも可能性も全くないから問題はないが……」

継承権がほぼ無いに等しくとも、一応皇族として何か思うところがあるのか、サグアノは口を僅かに尖らせる。

「まあいい。それより、今から城に向かうが、いくら君でもその格好ではさすがにまずい。だから先に僕の屋敷に行く」

言われて、一度自分の格好を見直した。確かに、一国の主の住む城に行く格好ではない。

「急いでいる事ではあるが、緊急というわけではない。皇帝への謁見は明日の朝になるだろうな」

……は?いや、まあそうか?そうなるのかな?

いきなり皇帝と謁見と言われてもねぇ……見た事ないって事もないし、一切面識がないとも言わないけど、普通こういうのっていくらか前から準備とかして挑むものではないか?いくらなんでも突然すぎやしないだろうか。

それなれせめて、あれだけすることもなく過ぎていった船旅の途中で教えてくれてもよかったんじゃ?

「言ってなかったか?」

「何も聞いていませんが?」

「そうか……」

微妙な沈黙となったところで、ゼイドがサグアノに声をかける。

「検査も終了しました。竜車も到着しておりますので、移動しましょう」

そうしてゼイドに促されるまま、私たちは船を降りて港の外れで待機していた馬車……ならぬ竜車に乗り込んだ。

さすが竜で有名なだけあって、馬の代わりに、飛行のための翼が退化し、地上で生活する種の竜に車を引かせている。竜より馬が珍しいダルネミアでは、むしろこちらの方が一般的だ。

はじめて見たときは巨大なトカゲが車を引いてるようにしか見えなかったから目を剥いた記憶がある。

そう言えば、レルチェ元気かなぁ……なんだかんだで一度も会いに行けてないままだし。

……人付き合いは避けて、仕事辞めるときに未練とかそういうのはないようにしてたつもりだったんだけどなぁ……

でもそんなの無理だった。いつの間にか友人ができて、よくわからない上司の下で働いて、竜をもらったり、告白されたり、色々あった。

「戻りたい、かも」

ボソッと呟いてしまった言葉をサグアノが聞き逃すはずがない。思いっきり腕を掴まれた。

「……やはりそれが本心なのだな」

「本心も何も、戻りたくて当然でしょう」

いきなり拐われ気が付けば遠く離れた国で、その国の王子と向かい合っている。しかもおとぎ話の存在だと思っていた精霊王が実在していて、それに意識を乗っ取られるかもしれない、そんな訳のわからない状況、できることなら逃げ出したいに決まってる。

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