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帝国の話2

「精霊自ら脅しても、新しい主人がそれを止めればいいじゃないですか。精霊が主人の命令に逆らうなんて……」

「あり得ない?いや、精霊王はただの精霊とは違った。主人を変えるたびにその関係に差はなくなっていき、やがて人間側が精霊王に意思を左右されるようになった。早い話が、意識を乗っ取られる」

え……それってかなりまずくないですか?意識を乗っ取るって、精霊としての何かを超えてる気がする。いや、精霊王らしいし、それくらいできるものなのか……?私、とんでもないことに巻き込まれてるんじゃ……

私の内心の焦りを知ってか知らずか、サグアノは淡々とした口調で事実を告げる。

「こうなった理由はわからない。だがとにかく、今は彼の要求に従うしかないんだ」

「それでその次の生贄が私、ということですか」

精霊に好かれるこの体質、精霊王でも例外ではないということ。

「そういうことになる。いや、普通なら主人が交代する時に帝国で最もいい者を選ばせるというのはさっきも言っただろう。今回が特殊なんだ。精霊王が君を指名した。どういうわけか君のことを精霊王は知っていたんだ」

「自意識過剰というわけではありませんが、精霊の関係者なら私のことを知っているのでは……?」

「君のことは可能な限り彼の耳に入らないようにしてきたんだ。君のことを知った彼が君を欲しがるのは目に見えていたからな。しかし彼は君のことを見つけていた。以前何度かダルネミアに出張に来ているだろう?その時に見たらしい」

それでもいずれ精霊王側に伝わっていたのではないかと思うけど、よく知ってるわけでもないから何も言えない。

「けどそれなら精霊王がアリュに来れば解決するのでは?色々と」

困るのは私だけど、それは今まさに困ってることだし。戦争をしていないダルネミアに、もはや戦力としての精霊王は必要ないんだから精霊王を送り出してしまえばいいんじゃないか?三代前の皇帝の時代までは必要だったとしても、今は下手したら精霊王についてはダルネミアにとって欠点でもあるわけだし。

まあ、実際に来られたら大いに迷惑だけどさ。

仮にもし精霊王にダルネミアの情報を流されるとしても、情報が渡ったと分かっているから対策なんていくらでもとれる。

「……ダルネミアは彼にとっては色々と都合のいい場所となってしまっている。実際、彼がアリュに行く必要はこうして君を連れて来たことでなくなってしまった」

「それは結果論でしょう。ですから、なぜそうしなかったんですか?」

「脅されていたからだ。どうしても連れてこないなら用無しななるダルネミアを破壊し尽くしてからアリュに行くと言われてしまっては逆らえない」

それを聞き、私は返す言葉を失った。

いくらなんてもやり過ぎだ。つけ上らせたダルネミア王家側にも責任はあるかもしれないが、それでもひどい。

「幸いなのは彼の本質があくまでの精霊であることだ。興味がある人間以外には関心を払わないし、美食や贅沢の限りを尽くすということはしない。存在を全国民に知られたいなどということも考えていない。こちらとしても、さすがに精神を乗っ取られるような相手に精霊使いを生贄のように捧げていると知られるのは世間体も悪いし、他国からすれば格好の批判の的になるから王の存在を隠してしまう」

脅されているとはいえ、一人の人間を蔑ろにしているともとれるから、ダルネミア帝国を悪く思っている人間にとっては攻める材料でしかない。

「ですが帝国を破壊するというのはどのように破壊するんです?止められないことなんですよね?」

「……火山だ」

「火山……?それって火を噴くっていう山ですか?」

アリュに火山はない。あるとしても火なんて吹かない普通の山だから、馴染みがなかった。

ダルネミアでは火山のおかげで土地そのものが温かかったり、温泉がたくさんあったりするそうだ。

「ああ、そうか。アリュには火山が少ないのだったな……」

私に馴染みがないだけで、ダルネミアにとっては山が火を噴くというのはとても深刻な問題らしい。そう言った時のサグアノの表情で察した。

「火山が噴火して出てくるのは火だけではない。大量の溶けた岩とそれが吹き出した時に飛ばされてくる岩、火山灰が皇都を直撃する」

「はあ……」

いまいち実感がわかない。とりあえず頭上から石が降ってくるということでいいのだろうか。防御すればなんとかなるのでは?

「最後に噴火した時……百三十年ほど前になるが、その時は皇都の大半の建物が破壊され、そのうち火山に近かった建物は溶岩に飲み込まれて今でもその下にある。なんの前触れもなく起こった噴火に、皇都の人間の多くは死んだ。ただし僕たち皇族に被害はなかった」

「まさかその噴火……」

「当時の皇帝に要求を渋られたことに腹を立てた精霊王が起こしたものだ」

精霊王の力がどれほどのものかはだいたいわかった。その気になれば街一つなんて簡単に破壊できる、と。

……わかったからって、なんの気休めにもならないな。むしろ不安になってきた。


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