帝国側の会話
タイトル通り、サグアノ目線です
「彼女が我々の提案を受け入れるそうです……って、提案とはなんのことです!?まさかもう例の話を持ち出したのですか?一度皇帝陛下と話し合うのではなかったのですか!」
部屋に入ってくるなり、ゼイドは怒りと驚きの混じった顔でそうまくし立てる。レネッタの部屋に食事を届けた後らしい。
「仕方ないだろう。目的はなんだと何度も尋ねられるのはもう飽きた。そして彼女は聡い。婚姻を結ぶ意味も恐らく把握しているはずだ。そしてその選択が現時点で一番よいということも分かっている」
「確かにそうかもしれませんが、状況が予定とは変わってしまっています。その提案はレゲルという補佐官が女であるということが露呈していない状況での話です」
「ああ、そうだったのか。僕としたことがうっかりしていた」
「うっかりでは済みませんよ!というか殿下、分かっておっしゃっているでしょう」
まああからさまな棒読みで言ったからな。
本来の計画では、男であると偽り補佐官をしていたという彼女の秘密を利用して先の襲撃の際に連れ出し、本来の性別通り女としてダルネミア籍を与えて、別人として皇族に入れる予定だった。
しかし襲撃が失敗したため、襲撃が失敗した時のための別の計画で彼女を攫うことになった。
こちらの方は成功したが、女であることが既に周囲にバレてしまった後であり、婚姻については一時的に保留することになっていた。
公の席に皇族として顔を出すことになったとき、少し似ているが性別的に別人だ、と思わせることがそれではできず危険だからだ。事実を知るであろう彼女の兄弟たちも確保する予定だった。
ゼイドは自分を落ち着かせるように大きく息をはく。
そしてまた小言を言い出した。
「第一、婚姻する相手は……」
「僕がなる」
僕は自分の周囲の顔を思い浮かべつつ言った。
「サゾル兄上のような堅物では冷え切った夫婦仲が見えるようだから却下。カラルド兄上は特定の女性がいなくても女癖が悪い。弟のゾアンは幼すぎるし、唯一未婚でこの件について知るラーハ叔父上はいくらなんでも歳が離れすぎている」
その他の兄弟は既に結婚しているか、公に付き合っている恋人がいる。ラーハ叔父上はじき五十に届こうとしているし、何よりカラルド兄上と同じくらい女癖が悪い。
「……殿下はそれでよろしいのですか?」
「別に構わない。幸いなことに、今は特に惚れている女もいない」
第五皇子という実に微妙な立場で精霊使い、こういった役割が回ってくることはわりと前から感じていた。
というか政略結婚以外の、誰かに恋をして結婚するなどということは考えたことがない。無縁なことだと思っていた。
女が茶会などで寄ってくることはあったが、ほとんどが皇子という肩書きに釣られた者ばかりだ。仮に違うところで惹かれたとしても、それは所詮見た目だろう。ますますどうでもよかった。
「それは、誰かを好いてはいけないと思っていただけではありませんか?」
ゼイドが実に言いづらそうに口を開いた。
「……お前にそんなことを言われるとは、意外だった」
心のどこかでどうせ政略結婚するのだからと、誰かを好きになることを諦めていたというのは、合っているかもしれない。
「失礼を承知で申し上げました。しかし、私は殿下の幼い頃よりお側に仕えさせて頂いておりますゆえ」
「別に怒ってはいない。ただ、そういう風に見ていたのだなと思っただけだ。ついでに言うと、カラルド兄上を見ているとどうもな……ああはなりたくない」
カラルド兄上とは歳も近い方で仲が悪いわけではないが、どうもあの性格は好きになれない。というか兄上があんなだから何かを勘違いした女が僕の方に回ってきているのではとさえ思う。
「公務の手腕は素晴らしいのですがねぇ……」
「だからこそあれだけの女性と付き合っているのに一度も修羅場を起こしたことがないんだろう。だが、あの性格だからこそ後継者争いも起こらないとも言える」
カラルド兄上から女好きをなくしたらそれこそ完璧な人材になるだろう。そうなると現皇太子のシルジス兄上ではなく、カラルド兄上を皇帝にという動きが起こっていただろう。
「まあ、第五皇子の僕には跡継ぎ争いなど関係無いことだがな。それに今回の役目もある」
「ですからまだ彼女との婚姻が決まったわけではないでしょう」
「彼女がダルネミア帝国に連れて行かれた、という情報がアリュに入ったのは知っているだろう。こちらに調査依頼がくるのはすぐだ。居場所が割れている以上、彼女をここに引き止めるための理由が必要だ。それもアリュがそう簡単に口出しできない理由が」
彼女に何か適当な罪でも被せて留めることもできるが、アリュ側からは誘拐について本人から聞き取りをしたいなどと言われるだろう。会わせないというのは無理がある。それを阻止するために処刑したということにすればたちまち外交問題に発展する。
「別に彼女のことが生理的に無理とかそういう事は一切無い。もっとも、向こうが僕のことをどう思っているかは知らないが……まあ、いずれ関係なくなることだ。婚姻は見かけ上、彼女の相手は僕ではない」
「だからこそです。殿下が彼女のことを決して嫌っていないことは存じております。むしろ気に入っておられるのでしょう。でしたらなおさら、彼女に情を移してはなりません。彼女は王に捧げられるのですから」
ゼイドが僕にことを案じているのは伝わってくる。確かに彼の言う通り、レネッタに情を移すのは後々のことを考えると決してよいことでは無い。しかし、彼女のこれからを思うと、そうせずにはいられない。
「僕は皇族だが、その前に人間だ。見捨てるようなことはしたくないし、後味が悪いだろ」
帝国が今後も存続していくために必要な生贄であるが、生贄だから仕方ないでは済まなかった。
「一応、好きになってもいい女。そう思っているからな」
……それを聞いた時のゼイドの顔は何か言いたげな、実に複雑な表情だった。
「それに彼女ならもしかすると、王の元でも変わらずにいられるかもしれないだろう?」
先週は投稿するのをすっかり忘れていました…東京行ったり迷子になったりと色々と忙しかったもので…
メリークリスマスと言いそびれてしまいました。
なのでここは良いお年を、とさせていただきます。
大晦日ですね……




