出発の様子
久々のアル目線です
俺とユアリスはカーレル様の友人で騎士のイグルドさんと共にダルネミアに向かうことになった。
あの時、何かわかったら教えてほしいと彼に頼んだら、それなら現地に行くのに付いてくるかと言われたのだ。
しかし、調査は全面的にダルネミアに依頼するので俺たちのすることはレネッタについての情報提供くらいのものだ。だから調査を任せている間、俺たちはダルネミアで軍備研修をすることになっている。軍関係である第二宰相の補佐官の候補にはちょうどいい口実だとカーレル様もおっしゃっていた。
レネッタが連れて行かれてから丸一日経過している。殺すつもりで攫われたわけではないというのは間違いないはずなので多少は安心だがあいつ……いや、彼女のことだから誘拐犯に対して大人しくしているなんていうことはあり得ない。
夜会で襲われた時、手足の有無を問わないとまで言っていた連中と関係がある誰かのところにいるのだから、命の危険がなくても決して安全ではないのだ。
「不安なのはわかるが、少し落ち着け。お前もだぞユアリス」
気付けば俺は机の端を指で叩き、広げられた地図の端の皺に目を向けていた。横を見ればユアリスもどこか気の抜けた表情で地図を見ている。
「ダルネミアまで最低十日はかかる。嵐に遭いでもしたらさらに伸びるんだからそうカリカリするな。誘拐犯の船に追いつくかどうかもわからないし、そもそも誘拐犯がダルネミア本土にいるかもわからないんだから。適当な島に逃げられてたら船やら海やらに慣れていない俺たちにはお手上げだ」
励ましているのか呆れているのかよくわからない口調でイグルドさんは言う。
確かに彼の言う通り誘拐犯に追い付けないのは分かりきっているし、地の利も全くない。今から焦っていても何も良いことはないのだ。
「あの少年は何も知らないの一点張りらしいですし、ダルネミアの方にいるということがわかっているだけでも幸運なのかもしれない」
レネッタを襲った少年、カイは王都騎士団の牢に囚われている。彼はまだ尋問を続けているが、ユアリスの言う通り何も知らないと言い続けているらしい。ダルネミアの名前を出しても何の反応もなかったそうだ。
本当に何も知らないのか、それとも彼はあの年で相当な訓練を受けてきたのか……どちらにせよ彼から情報を聞き出せるということは期待しないほうがいいだろう。
「まあ追跡が上手くいったのは拐われたのが彼女だったからかな」
イグルドさんが頬杖をつきながらぽつりと言った。
「普通だったら追いかけてくる精霊がいたら怪しまれますよね」
レネッタが行くところに精霊あり。付いていく精霊もさぞ多いことだろう。皮肉なことに、リフィアル嬢との計画が失敗した原因と似ていた。
「運がいいと言うべきか。だがそれでレネッタがお前とそのお嬢さまが会えていたらまた違ったかもしれないな……何にせよ、もうじき船が出る。しばらくアリュには戻れない。忘れ物はしてないよな?」
沈んだ雰囲気を和ませるためか、悪戯っぽくイグルドが最後を締めたところで出港の汽笛が鳴った。
食欲の秋ですね……色々ついつい食べ過ぎる
運動の秋でもあるはずですが……(意味深)




