作戦と嵐5
ようやく縁のところに到着した。
この嵐の夜に私が甲板のどの位置にいるかなんてとてもわからないだろう。あんまりにも疲れたので私は少しだけそこに突っ伏して息を整える。雨と風でだいぶ体が冷えているのがわかった。
でもまだ終わっていない。私は辺りに目をやり、精霊を探す。嵐だからか辺りは水精霊と風精霊、雷精霊で溢れていた。
その中で一番高位で力の強い水精霊を探す。属性が被ってしまうがこの状況を打破するには必要なことだ。
結構集まってきているので探すのは大変だけど……見つけた。
その精霊は船のすぐ側の海面近くをふわふわと漂ってこちらを見ている。嵐の海の中だからだろうか、私が今まで見てきた中で最も強い精霊であることに間違いなかった。
その水精霊と目が合う。そして手招きをするように手を振り、私を呼んだ。
雨と水飛沫に霞む視界の向こうの精霊の口が『おいで』と動いた気がした。
私はそちらに吸い寄せられるように縁から身を乗り出す。
精霊もふわりと浮かび上がり、そろそろ手が触れそうだな……と思ったら突然、その水精霊の姿が消えた。それと同時にいきなり後ろに引っ張られる。
「馬鹿か!死ぬ気か!?」
「……そうですが、何か?私が死ねばこんなこと意味がなくなります。あなた方は私がどこぞの島の浜に打ち上げられていたとでも言えば、国際問題にはならない」
海に落ちる予定だったから別に私としては構わない。
入水を図って死んだと思われれば、ゼイドの言った戦争とやらも起こす必要はなくなるだろう。こっそりアリュに戻って無事をみんなに知らせた後にダルネミアと交渉し、こんな誘拐を企てた理由等を洗いざらい話させてから私の協力が必要なら手助けする。
これはダルネミアに借りを作る機会にもなるのではないだろうか。そしてそれはさらに、私が今回みんなにかけた迷惑料をチャラにすることも可能にするかもしれない。だから……
「邪魔しないでください」
「嘘を吐くな。死ぬ気があればこの状況で精霊と契約を結ぼうとするはずがない」
「……とっくにお見通しだったというわけですね」
「新たに精霊と契約を結ばせるようなことはするなとゼイドに命じさせた」
ゼイドが酔い潰れ、彼の精霊が動かないから指示なしには動かないのだろうと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「放してください」
「無理だ。諦めて戻れ」
可能性があるのなら賭けたい。それにまだ、壁を張ったと言っても精霊に対する壁だ、私が出てしまえば関係なくなる。つまりなんとかここから飛び降りる。精霊との契約は海の中でもできるから。
大きく揺れる船はただでさえバランスが悪いのだから、この手さえ振り解けばすぐに海に飛び込める。
それに、あの精霊が呼んでいる気がした。
知らない人について行ってはいけません




